政治が協調に向かうためのものだとするのがハーバーマスだとすると、政治は対立を明確化するものだとするのがシュミットで、この両者の差は決定的です。ある意味、政治という現象の二面性をそれぞれ異なった角度から解釈しているとも言えますが。日本の村社会的な調整型の政治に慣れていると、シュミットの主張はかなり過激にも感じられます。が、射程を世界に拡げると内戦や国家間戦争という形で生き死を賭けた対立は散見されます。シュミットの「友-敵理論」は対話の余地がないほど対立が激しい政治状況をどう考えるべきかを問うている訳です。
ここまで踏まえ改めて秋水に話を戻します。結論から申しますと、鶴河秋水は明確な「シュミット主義者」となります。
単行本1巻巻末のキャラクター設定によると、秋水の好きな物の一つが「ウルトラマン」、即ち正義の味方です。反対に嫌いな物の一つとして「悪い怪獣」が挙げられています。日常から敵味方の認定をし続けている事がここから明らかです。隼に絶大な信頼を置く秋水ですが、物語序盤に隼が実家へ戻って来た際は「空き巣」認定をして彼に蹴りを入れています(第1話「ファミリア」参照)。敵認定すれば相手が誰であろうと迷いなく攻撃する様が伺えます。
また、秋水は「敵」を手前勝手に認定して攻撃している訳ではありません。シュミットによると、「友」や「敵」は個人的感情から規定されるものではなく、集団としての同一性や特定の秩序や正義を共有しているか否かで規定されると主張します。祭りの屋台を破壊した「敵」に対峙した際も、相手が攻撃した後に正当防衛が認められた場合のみ反撃が可能という、ファミリーのトップ・隼の指示通りに秋水は攻撃しています(第11話「零式!」参照)。そして前述の隼への蹴りも「家族のメンバーを空き巣から守る」という大義がありました。そのように、彼女は味方側の正義の秩序に沿った上での攻撃を敵に加えているのです。
ですから秋水が隼におっぱいを差し出すという行為も、それが秩序への忠誠を誓う彼女なりの儀礼であると解釈出来るのかもしれません。どこまでも味方の理屈に彼女は忠実ですね。ちなみに私は胸の大きさで誘惑するような女性にはなびきません。って、誰も興味ありませんか。
話をまとめましょう。ここまでから鶴河秋水は「友-敵認定型のシュミット主義系ヒロイン」と言うことが出来そうです。どんなヒロインだよ、とツッコミが入りそうですが、こういう触れ込みのアイドルがいたら私個人は思想的に萌えます。何なら自分がクラウドファンディングしてでもプロデュースしたいほどですね。それが実現するか否かは乞うご期待ということで。