オーナーは元大手広告代理店OBで1級建築士 世界で話題のシティ・ポップを聴かせる大人のバー 神戸

チコ山本 チコ山本
温厚そうなマスターの波多野さん
温厚そうなマスターの波多野さん

 いま海外で人気となっている日本のシティ・ポップを小粋な空間で聴けるカジュアルバー「kamue(カミュウ)」が神戸にオープンし、ちょっとした話題になっている。オーナーの波多野一彦さん(67)は大手広告代理店のOBで、1級建築士の肩書も持っており「音楽と空間とおいしいお酒」がコンセプト。なぜ、シティ・ポップにこだわったバーを始めたのか。訪ねてみた。

 店内に流れるメロディーが心地良い。肩肘張らず、それでいて小粋に飲めるのが「カミュウ」のいいところだ。わたしたちのようなアラカン世代にとっては青春時代を思い出させてくれ、ときに切ない気持ちにもなる。

 「おっ、このきれいな声はだれだったかな?」

 すると隣のお客さんが「今井美樹ですよ」と親切に教えてくれる。そんなところから会話のきっかけに。場合によっては意気投合し、気の合う仲間になるかもしれない。

 場所は神戸市中央区中山手通。JR三ノ宮駅から山側に進み、徒歩7分ほどの左手にある。テーブル席につくと目の前には、お酒好きのマスターの波多野さんがセレクトしたウイスキーなどのボトルが整然とオシャレに並んでいる。中央にはピアノ。その横にはギターも置いてあり、自由に弾けるそうだ。

 「会社から家に帰るまでに気持ちをチェンジできるような場所があればいいと思って、オープンしたんですよ。私自身が真っ直ぐに帰られへんタイプだったから自分が通いたくなるようなバーがいいと思い、それやったら、おいしいお酒とシティ・ポップだな、とこの形にしました」

 そう話す波多野さんは1955年神戸生まれの神戸育ち。温厚そうな佇まいだが、何を隠そう。華麗なる経歴の持ち主だった。京都工芸繊維大で住環境を学び、卒業後は大手スポーツメーカーへ。ここで展示会などの企画を手がけ、その後大手広告代理店へ転職した。最近は何かと騒がしい広告業界だが、地道な準備と的確な仕切りが必要な仕事。波多野さんはそこでも数々のイベントやミュージアム、博覧会に携わり、神戸ルミナリエの責任者でもあった。

 おそらく、自由奔放で好奇心旺盛なのだろう。2012年に早期退職し、1級建築士事務所を立ち上げ、やがてバーのマスターも兼務。なるほど、店内を見渡すと、おしゃれな版画が飾られ、ブルーグリーンを基調とした壁が落ち着いた雰囲気を醸し出してくれる。コンセプトは「音楽と空間とおいしいお酒」というのも頷ける。なんだか、遊び心の完成形のような空間だ。

 実はオープンしたのはコロナ禍の2020年。その頃と言えば、シティ・ポップは、海外でようやく注目され始めていた段階で日本ではまだ復活の動きはなかったころだ。なぜ、シティ・ポップのバーをやろうと思ったのか。

 「日本が一番輝いていたあの頃、何の不安もなかったあの時代のように元気になってもらいたいと思ったんですよ。閉塞感や同調圧力がある中、もっと明るく、おおらかな社会になればいいな、と。周りには反対されましたが、あえて始めたようなところもありました」

 シティ・ポップとは70~80年代に日本で流行したニューミュージックの一種。オシャレで都会的なライフスタイルを求めた当時の若者たちが感じた時代の空気を洗練されたメロディーや歌詞で表現した。代表格は大滝詠一や山下達郎、松任谷由美(荒井由実)、竹内まりや、大貫妙子ら。それらの名曲がYouTubeやSpotifyなどの音楽配信サービスによって、まず海外からブームに火がつき、逆輸入のような形で日本でも注目されるようになった。なかでも、切ない女心を歌った松原みき「真夜中のドア」は海外では定番になっているそうだ。

 「特に、これって言う定義はないようですが、フォークソング、アイドル、グループサウンズは含まれないようです。実のところ、ここまで海外で流行するとは思いませんでしたが、本当にいい曲が多い」と波多野さん。用意している曲は約500曲。客層は50代以上が中心だそうだが、シティ・ポップを聴きながら飲める店は全国的にも珍しく、大阪方面から訪れる30代前後のお客さんも増えてきたという。

 「目指しているのは居心地の良い空間。世代を超えたコミュニティーの場になればと思っています。神戸にはオーセンティックな大人の店か、若者が集まるバーという二者択一のような感じなので、その中間のような立ち位置でしょうか」

 時代を受け入れつつ、時代を優しく見つめるマスターが演出する空間が気持ちいい。何回も通いたくなるのがよく分かる。

◇City Pop Bar「kamue」

兵庫県神戸市中央区中山手通2―3―18 メープル中山手101

電話078(381)7115

営業時間:月~金 18:00~23:30、土 15:00~23:30

※月水金はシティ・ポップ(70~80 年代)、火木はアダルト・コンテンポラリー・ミュージック(70~80 年代)、土はスタッフセレクト、定休日:日曜・祝日

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