未解決事件の一因にある「政治との絡み」元警視庁刑事の作家に聞く、世田谷一家殺人事件の犯人は今?

深月 ユリア 深月 ユリア
世田谷一家殺害事件で公開された、遺留品の「ヒップバッグ」と「マフラー」のレプリカ(2018年5月22日 提供/共同通信社)
世田谷一家殺害事件で公開された、遺留品の「ヒップバッグ」と「マフラー」のレプリカ(2018年5月22日 提供/共同通信社)

 テレビ番組、雑誌などで特集されることも多い「未解決事件」。多くの謎に包まれた事件に世間の関心は高い。ジャーナリストの深月ユリア氏が1960年代、80年代、2000年と時代を追って、3つの未解決事件について専門家の見解を聞いた。

      ◇    ◇    ◇

 世の中には警察の捜査では真相が解明されなかった未解決事件がある。元警視庁刑事で作家の北芝健氏はどう見ているか。

 【三億円事件】

 68年12月10日朝、東京都府中市で現金輸送車に積まれていた現金約3億円が、白バイ警察官を装った犯人に盗まれた。同事件は88年12月10日に時効となった。

 北芝氏は「3億円というと、今でいえば27億くらいの価値がありますね」とし、次のような説を紹介した。

 「盗まれた金の一部は、とある大きな水商売の店舗に使われた」「犯人は単独犯でなく、雇われた可能性もあり、事件後に(口封じのため)毒殺された」「大物政治家の側近が絡んでいる」

 もちろん、警察が公式に発表した内容ではない。謎の多さゆえに、多くの「説」が飛び交っているということだろう。

 【グリコ森永事件】

 84年から85年にかけ、「かい人21面相」を名乗る犯人が複数の食品メーカーを狙った一連の企業脅迫事件。 84年3月、犯人は江崎グリコ社長を誘拐し身代金として現金10億円と金塊100キロを要求したが、江崎社長は自力で抜け出し保護された。その後、脅迫は森永製菓などにも及んだ。犯人は各事件で、現金を要求したが、指定した受け渡し場所に姿を現さなかった。2000年に公訴時効が成立。

 北芝氏によると「(不思議なことに)江崎社長は当初は事情聴取にすんなり応じましたが、グリコの幹部が駆けつけて20分ほど密談した後はめっきり話さなくなったのです」
 犯人像について、同氏は「犯人は『キツネ目をした男』だということが分かっています」と説明。その上で、犯人逮捕の決定機を逃した経緯を次のように解説した。

 「実は警察は犯人逮捕の手前で3度チャンスがあったんですが、あと一歩のところで取り逃がしました。例えば、捜査警官は大津サービスエリアで『キツネ目の男』を見たのに、本部からの指示は『尾行』のみで『職質』しなかったのです。警察組織は上層部と現場に封建的な上下関係と温度差があり、自治体ごとの縄張り意識も強いです。このような組織体制が事件が未解決のままである一因でしょう。犯人を取り逃がしてしまった滋賀県警本部長はとても責任感が強かったようで、85年8月7日に焼身自殺をしています。その5日後に事件が『終結宣言』されたのです」

 【世田谷一家殺人事件】

 2000年12月30日午後11時頃から31日未明にかけて、東京都世田谷区の会社員社宅で、父親(当時44歳)、母親(同41歳)、長女(同8歳)、長男(同6歳)の4人が殺害された。

 現場には犯人の指紋・血痕や靴の痕、マフラーやヒップバックなど犯人の持ち物が残っていた。また、現金は盗まれていなかった。犯人は犯行後にしばらく現場に留まり、パソコンを触りながらアイスクリームを食べていたという。

 北芝氏によると、「犯人の持ち物も置かれていたので、初動の捜査で『すぐに犯人は見つかる』というふうに事件を甘く見すぎでしたね。犯人が浴槽の中に様々な物(被害者の財布、被害者の家の鍵、血がついたタオル、アイスクリームのカップ、書類)を残したことは、捜査をかく乱させていました」

 犯人像として、さまざまな説があるという。

 「犯人は若い男で、珍しい香水をつけていた」「複数犯」「犯人はケガをしていたようで、現場に残された血からDNA鑑定をした結果、外国人の遺伝子を持つ可能性も考えられる」「犯人は犯行から1年ほどは日本にいたかもしれない」

 諸説あるが、警視庁特捜本部サイトなどで警察側が公表しているものではなく、どのような推測や仮説があっても、断定はできない。謎の多い事件に解決の糸口はあるのか。

 北芝氏によると、宗教や(国際的な)政治などの問題が絡んでいると解決が難しいのだという。さらに、同氏は「一説によると実行犯は既に死亡、もしくは不都合な事実を隠蔽するために殺害されている可能性もある」と指摘。だが、依然として、真相は闇の中だ。

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 こうした事件が『未解決』である一因として、北芝氏は「命が失われるような事件でも政治との絡みがあると、捜査がややこしくなります」と指摘。その上で、同氏は「僕の捜査は『(被害者の)命が大事』という考えで行っています」と使命感を示した。これらの事件が明らかになる日は訪れるのか。

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