市営住宅には、入居できる収入の上限が定められている。住宅に困っている世帯が優先される仕組みで、基準を超えると申し込めない。そのため、収入の限られた世帯のための住まいというイメージを持つ人は多いだろう。
そんな印象があるからこそ、その駐車場に高級車が停まっていると、どこか不思議に映る。小さな一戸建て住宅で暮らすAさんも、その1人だった。車は維持費を抑えるために軽自動車を選び、日々家計を切り詰めてきた。
ところがある日、近所の市営住宅の駐車スペースに600万円を超えそうなミニバンが停まっているのを見かけた。市営住宅は所得の低い人向けという印象が強かっただけに、なぜ高級車を持てるような世帯が住み続けられるのか、Aさんは不思議に思うのだった。
そこで、市営住宅の入居基準についてファイナンシャルプランナーの橋本ひとみさんに話を聞いた。
審査で見られるのは資産ではなく収入
ー高級車に乗っている人でも市営住宅で住むことが可能なのですか?
資産が多いことを理由に入居できなくなるわけではありません。市営住宅の審査で主に見られるのは、世帯の収入と、いま住宅に困っているかどうかです。多くの自治体では、収入月額15万8000円以下(一定の要件を満たす裁量世帯は21万4000円以下)といった、条例で定める収入基準をもとに入居資格を判断しています。
貯金の額や車の価格そのものを審査する仕組みは一般的ではなく、収入が基準の範囲内であれば、手元に一定の資産があっても入居や居住はできます。
ー600万円の車に乗れるほど余裕があるように見えても、住み続けられるのでしょうか?
外から見た暮らしぶりだけでは、その世帯の家計まではわかりません。中古で安く手に入れた車かもしれないし、親族名義の車を借りている場合もあります。また、ローンを組んでいれば、毎月の返済が重くのしかかっていることもあるでしょう。
地方では通勤や通院、買い物に車が欠かせない地域も多く、車の所有を一律に禁じれば生活が成り立たない世帯も出てきます。こうした事情から、車種や価格だけで入居の可否を判断する自治体は基本的にないようです。
加えて収入は前年の所得で判定されるため、見た目の生活水準と所得額が必ずしも一致しないこともあります。
ー入居したあとに収入が増えた場合は、そのまま住み続けられますか?
ここが「見られていない条件」の裏側といえる部分です。入り口では資産を見ませんが、入居して3年を超えたあとに収入が基準を上回ると「収入超過者」となり、家賃が段階的に市場に近い水準へ引き上げられていきます。
さらに5年以上住み、直近2年続けて政令月収31万3000円を超えると「高額所得者」とされ、住宅の明け渡しを求められることもあります。なお、駐車場を使うには入居者本人や同居家族が使用者であることや、家賃を滞納していないことなどを条件とする自治体もあります。
◆橋本ひとみ(はしもと・ひとみ) ファイナンシャルプランナー
銀行勤務12年を経て、現在は複数企業の経理代行をおこなう。法人営業や富裕層向け資産運用コンサルティングの経験に加え、ファイナンシャルプランナー、宅地建物取引士の資格を持つ。