陸上自衛隊郡山駐屯地(福島県)に所属していた元自衛官・五ノ井里奈さん(23)が30日、都内の日本記者クラブで会見を行った。複数の男性隊員から性暴力を受けていた問題で、同日に横浜地裁へ民事訴訟を起こしたことを報告した。元男性隊員5人(懲戒解雇)に、五ノ井さんが受けた精神的苦痛に対し全体で550万円、職場環境の配慮義務を怠ったとして国に200万円を求めた。国家賠償法により元隊員への請求が認められなかった場合は、国への請求に550万円を上乗せする。
五ノ井さんは元隊員との示談交渉が進まない現状を説明。「できることなら、戦う選択をしたくなかった。昨年12月に回答をお願いしても戻ってこず、相手は反省していないと感じた。このままではハラスメントの根絶は不可能だと思った」と語った。宮城県出身で「私は東日本大震災で自衛隊に助けてもらった。感謝の気持ちは変わらず、自衛隊は今でも好きです。好きな自衛隊を辞めざるを得ず、たくさんのものを失ったので責任を取ってもらいたい」とし、「国に対しては、(退職前に)被害を訴えた時に調査していただければ、退職しなかった。調査をおろそかにした責任はあると思う」と続けた。
元隊員との示談交渉に関して、会見に同席した弁護士は「相手側の代理人は『個人責任が問えるか疑問がある』と書いていて、五ノ井さんがショックを受けました。責任がないということか、と問いかけました。また、示談金も今回の請求額よりはるかに少ない額でした。それ以降、一切連絡がないため、やむを得ず提訴しました」と説明した。
五ノ井さんは陸上自衛隊に所属していた2021年に複数の隊員から胸を触られる、押し倒され腰を押し付けられるなどの性被害を受けた。退職後の22年6月、上官から集団でセクハラを受けたとして実名および顔を出してネットを中心に被害を告発。防衛省に事実の究明を訴えた。防衛省は同9月に性暴力の事実を認定し、10月には加害者4人が五ノ井さんに面会し謝罪。同12月には、防衛省が性暴力に関わった隊員5人を懲戒免職とするなど、男性隊員9人の処分を発表した。
五ノ井さんは「自分と相手側の主張の食い違いをオープンにした方がいいと思った」と改めて訴訟の理由を説明。「何年後かは分かりませんが、女性隊員が安心して勤務できる環境をつくってほしい。自衛隊は素晴らしい職業なので、変わってほしい」と語った。