都会の喧騒を離れ、静寂な山中で炎を見つめる時間を大事にしている人はいるだろう。しかし、その癒やしの代償として「火の不始末」が招く現実は、あまりにも過酷で、取り返しがつかない。
友人たちと山へキャンプに出かけた男性は、夜は焚き火を囲んで酒を酌み交わし、至福の時を過ごした。そして就寝前、火が小さくなったのを確認し、「もう消えるだろう」と水をかけずにテントに入ってしまった。
翌朝、強風で残り火が枯れ草に引火し、山林の一部を焼く騒ぎになってしまう。幸いけが人はいなかったが、警察の事情聴取を受けることになり、彼は青ざめた。「たかが焚き火」と甘く見ていた代償は、法的責任としてどのように降りかかるのか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー不注意で火事を起こした場合、どのような罪に問われますか。
基本的には刑法第116条の「失火罪」に問われる可能性が高いです。失火罪の罰則は50万円以下の罰金です。
しかし、今回のように「残り火に水をかけずに寝る」という行為は、わずかな注意さえ払えば火災を防げたにもかかわらず、それを行わなかったとして「重過失」とみなされる可能性が高いと考えます。
その場合、刑法第117条の2「重過失失火罪」が適用され、3年以下の禁錮または150万円以下の罰金と、罪が重くなります。「業務上失火罪」は業務として火を扱う場合ですので、レジャーのキャンプでは通常適用されませんが、重過失は一般人でも適用されるため注意が必要です。
ーもし、山林ではなく他人の家やテントに延焼させた場合はどうなりますか
延焼先が人が住んでいる家や、人が中にいるテントであった場合、より重い責任を問われます。
刑法第116条第1項には、人が住居として使用している建造物等を焼損させた場合の規定があり、これも同様に重過失があれば「重過失失火罪」として処断されます。山林火災(第116条第2項)に比べて、人の生命や財産に対する危険性が高いため、警察や検察の捜査もより厳しく行われることになるでしょう。
ー刑事責任とは別に、民事上の「損害賠償責任」はどれくらいになりますか
通常、日本には「失火責任法」という法律があり、軽過失(うっかりミス)による火事では損害賠償責任を問われない特例があります。しかし、この法律は「重過失」には適用されません。
焚き火を完全に消火せずに放置する行為は「重過失」と認定されるケースがほとんどです。その場合、焼けた立木の賠償、植林費用、延焼した他人のキャンプ道具や車両の弁償など、すべてを賠償しなければなりません。山林火災の場合、損害額は数百万円から、広範囲に及べば数千万円単位になることも珍しくないでしょう。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。