「劇場版 あしたのジョー2」上映イベント 渡辺歩氏らアニメーター視点から魅力語り合う

山本 鋼平 山本 鋼平
会場に展示された「劇場版 あしたのジョー2」ポスター (C)高森朝雄・ちばてつや/講談社
会場に展示された「劇場版 あしたのジョー2」ポスター (C)高森朝雄・ちばてつや/講談社

 「劇場版 あしたのジョー2」(出﨑統監督、1981年公開)の復活上映イベントが27日、都内で行われ、トークショーに演出家・アニメーター・監督の渡辺歩氏、アニメーター・キャラクターデザイナーの野口征恒氏、アニメーター・監督の羽原信義氏が登壇した。

 原作・高森朝雄(梶原一騎)、漫画・ちばてつやによる名作ボクシング漫画を原作に、アニメ「エースをねらえ!」「ガンバの冒険」「家なき子」「ブラック・ジャック」などを手がけ、様々なアニメ演出技法を生み出したことでも知られる出﨑統監督が尽力。矢吹丈とホセ・メンドーサの世界戦をクライマックスに、原作最終回のラストシーンまでが描かれた。トークショーではアニメーターの視点から作品について語られた。

 「ハクション大魔王2020」でキャラクターデザインと総作画監督、4月放送開始の「女神のカフェテラス」でもキャラクターデザインを務める野口氏は、あしたのジョーファンサイト『SOUL OF JOE』管理人でもある日本屈指のマニア。セル画の未作画箇所が映り込む〝セルバレ〟シーン、着色忘れ、背景の不備等を挙げるマニアックな知識を披露。「昔から見過ぎて、いろんな所が見えてしまった。いちいち茶化していたら『お前は嫌いなのか』と言われてしまった。愛がありすぎて…」と苦笑いを浮かべた。

 現在の仕事では、作画でモブキャラなどに「あしたのジョー」のキャラクター等をこっそり紛れ込ませることにやりがいを抱くという。ダメ出しを受け、修正した経験も明かした。ただ、昨年放送のテレビアニメ「アキバ冥途戦争」のボクシングシーンでは、要請を受けて「あしたのジョー」をモチーフとした作画を担当。「思う存分堂々とパロディができた。なかなかないことですね」と笑顔で振り返った。ファンサイトを通じたイベント開催も手がけており、アニメーターとしても作品を通じて、さらなる〝布教〟に意欲を示した。

 「ドラえもん のび太と緑の巨人伝」「漁港の肉子ちゃん」などの劇場版アニメ、「メジャーセカンド」「謎の彼女X」などのテレビシリーズ監督を務めた渡辺氏。「あしたのジョー2」のテレビシリーズと劇場版での声優変更が話題に挙がった際、白木葉子に並ぶヒロイン、林紀子を担当した藤田淑子の演技が、オーディションで選ばれ声優デビューだったテレビ版の森脇恵と比べて、大人っぽい色気ある声に変わった点に、中学生だった当時、ショックを受けたことを述懐した。

 渡辺氏は声優らしい一般的な演技よりも、俳優や子役らによるものを好む傾向にある。矢吹丈役のあおい輝彦、丹下段平役の藤岡重慶。劇場版ではテレビシリーズと異なり、葉子役に檀ふみ、力石徹役に細川俊之、ホセ役に岡田眞澄が起用された演技面に触れ「改めて考えるとジョーはリアルな芝居だった。僕は基本的にディフォルメされた芝居よりは、抑制された声が好き。その源流の理由を見た気がしますね」と、新たな気付きを口にした。

 テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」「蒼穹のファフナー」「境界戦機」の監督を務めた羽原氏は、セル画がつくりだす影やゆらぎなど、現在のデジタル技術では難しくなった映像の箇所を指摘。逆にホセ戦でジョーの右目に異変が起こり、その視界半分がぼやける作画についてはデジタルと異なり「半分だけぼかすのはアナログでは難しいんですよね。マルチプレーンの台に半分だけワセリンを塗って、光学的にぼかしている」と、ホセ戦のリングマットに描かれたデザインには「ライオンの模様をちゃんとパースに分けて描いている」と、当時の作画へのこだわりに感心した。

 止め絵、スローモーションなど多彩なアニメ演出法を生み出した出崎監督。その影響を問われ、羽原氏は「出崎演出は心の中に宿っていて、知らずに出てしまうことがある。影響を受けている人は多い。シーンのつなげ方もすごい」と話し、渡辺氏は「光のコントロール、時間的な表現がうまい。ボクシングの一瞬での情報量の扱い方がすごい。影響というか、なかなかやろうとしてもできない」と語った。

 トークショーの終盤には、アニメプロデューサーの丸山正雄氏がゲストとして登壇。虫プロ時代からの「あしたのジョー」、出崎監督に関する思い出を披露し、会場を沸かせた。

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