クリスマスが近づいてきた。聖夜の食卓におけるメインディシュはチキンやターキーなど肉料理のイメージがあるが、実は欧州であっても魚料理がメインになる国があるという。クリスマスにコイ料理を食べるというポーランドにゆかりのあるジャーナリストの深月ユリア氏が、家族とともに味わったポーランド人祖母の手作り料理を振り返りつつ、識者にも見解を聞いた。
◇ ◇ ◇
日本でクリスマス料理といえばチキンやターキーレッグ(※七面鳥の足)を思い浮かべる方が多いだろう。クリスマスは言うまでもなくキリスト教文化圏の行事だが、キリスト文化圏でも、各国により個性豊かなクリスマス料理があるという。
中央大学総合政策部で比較文化・比較宗教学の講師をしていた酒生文弥氏によると、「クリスマスの月日や祝い方、料理は地域と教派によってかなりバラエティーに富んでいます。日本はアメリカの商業主義クリスマスが一番成功している国と言えるでしょう」
酒生氏によると、敬けんなクリスチャンは肉より魚をクリスマスの晩さんに食べるという。「『イエス・キリスト・神の・子・救世主』をギリシャ語で書いて頭文字を取ると、『イクステュースク(魚)』となります。旧約聖書によると、キリストの奇蹟に『5個のパンと2匹の魚で5000人を満腹にし』があり、ペテロを『人を信仰の網に取る漁師』と呼んだこと。これらが相まって『魚』はキリスト教のシンボルとなり、聖ペテロ寺院を本山とするバチカンが魚を聖さんとするのです」
キリスト教文化圏において「魚」はイエス・キリストの象徴であり、キリスト教徒がローマ帝国の初期の時代に迫害された時、キリスト教徒たちはお互いの暗号として「魚」のマークを用いたという。キリスト教の宗教画には、食卓のシーンで魚がどこかに描かれることが多い。
筆者の母の母国であるポーランドも聖夜には魚料理が食卓に並んだ。クリスマスの時期には料理上手の祖母が毎年のように日本に来訪して、クリスマスのポーランドの家庭料理を作ってくれた。
ポーランドでも敬けんなクリスチャンの家庭ほど肉より魚料理が中心だ。伝統料理であるバルシチ(ポーランド風ボルシチ)、ジャガイモやチーズが入ったポーランド風餃子ピエロギ、ポテトサラダやハム、そしてコイのムニエルなどが並べられる。ポーランドで食用のコイは栄養価が高い食材で「魚の王様」とされ、高級料理として重宝される。
バルシチはビートのスープで、ウクライナのボルシチよりビートの味が強く具は少ないか入れないことも多い。ピエロギは皮が餃子の皮より厚くもっちりしていて、腹持ちも良いので、パンの代わりの主食にもなる。コイは臭みを取るためにあく抜きしてムニエルにすると、独特のうま味があり美味だ。
では、ポーランドのように、クリスマスに魚料理を食べる国は他にもあるのだろうか。英誌「インディ100」を参考に一部紹介する。
イタリアは肉よりタラの煮込み料理が好まれる。スペインも肉より海鮮料理が中心で、シーフードパエリアやタイなど魚の丸焼きが食べられる。オーストラリアも肉より魚を多く食べる習慣があり、真夏となるクリスマスでは海辺でシーフードバーベキューをする光景が見られる。
一方で、肉料理が主流という国も少なくない。フランスはメインに七面鳥、鶏肉、ローストビーフなど、ドイツはサワークラフトやポテトサラダを添えたソーセージ、英国は七面鳥やローストポークといった具合だ。
また、気になるのが戦争状態にあるウクライナとロシア。ウクライナはキリスト教の12月25日とウクライナ正教の1月7日と、クリスマスが2回祝われ、ボルシチやロールキャベツ、バレニキというウクライナの餃子が並べられる。ロシアはロシア正教がユリウス歴(※紀元前のローマ時代から使われた太陽暦)を用いるため、クリスマスは1月7日に祝われ、スモークサーモンやニシン、ガチョウとリンゴのオーブン焼きなど、肉と魚の料理が並ぶ。
酒生氏によると「すべての宗教の要諦は『善であれ(いのちのためになれ)』です。各国によってクリスマス料理の食文化は異なるが、「聖誕祭」=「命に感謝する日」でもあるので、いただく食事(命)にも食事を一緒にする人にも感謝を忘れず楽しいクリスマスを迎えたい。