体験型イベント「やわらか写真館 赤ちゃんの感触を残す記念撮影」が東京・渋谷のマイラボ渋谷で開催されている。3Dスキャナーと3Dゲルプリンターを用いて「やわらか記念写真」を製作する。やわらかいモノづくりを研究する山形大学ソフト&ウェットマター工学研究室の古川英光教授(54)は「今回の実験的なイベントを通して高強度ゲルへの世間の反応を知りたい。新しい広がりが見つかるかもしれない」と期待を寄せた。
赤ちゃんを中心に笑顔を見せる保護者。その手には、わが子の表情を撮影した、凹凸な写真があった。写真は袋に印刷されており、ほっぺたと同じやわらかさのゲルが封入されている。固体と液体の中間で水分を多量に含むゼリー状ながら、力を加えても壊れない高強度ゲルを写真と合体させた。
新光電子製の機器「やわらかセンサー」でやわらかさを数値化。3Dスキャナーをもとに、山形大学が開発した3Dゲルプリンターでほっぺたと同じやわらかさの高強度ゲルで目鼻立ちの凹凸を再現する。UVプリンターで赤ちゃんの顔を印刷した袋にゲルを封入した〝写真〟では、平面的な画像と目鼻の凹凸の合体に多少の違和感を覚えるが、「ロボットが人間に近づくと、ある時に親愛さよりも気持ち悪さが増す現象を『不気味の谷』と言いますが、これに少し似ているかもしれません。慣れると気にならなくなりますよ」と古川教授。撮影に参加した保護者たちも次第に慣れたという。もっとも、実験段階なだけに袋自体の質感や硬さが影響するなど、改良の余地は多い。
3Dゲルプリンターは医療分野で活用される場合が多い。欠損部分を補う人体の部位、手術練習用のシミュレーション器具などの製造、医学生向けに病が疑われるしこりを再現することなどがある。その中で古川教授は、一般社会でもっと身近になれば、高強度ゲルの新たな可能性が広がると期待する。
「ゲル研究は日本が世界的にリードしている分野で、コンタクトレンズなどに活用されています。我々の3Dゲルプリンターをもっと一般的に活用してもらいたいのですが、なかなか難しい。知られているのはインテリアで人気の人口クラゲくらいでしょうか」と苦笑い。今回の主催イベントで「やわらか記念写真がブームになればいいですね」と柔和な口調で語った。
イベントには、3Dゲルプリンターの製造時間を通常の2時間から30分に短縮する仕様で臨んだ。ただし、赤ちゃんの撮影が予想以上に手間取るため、完成には3時間程必要。24日まで、同会場で土曜日と日曜日に撮影と製作を実施している。
イベントの最終日である25日は、東京と大阪の会場で企画「やわらかテレポーテーション」を実施する。遠距離カップルを対象に、大阪でデータを取り、東京で3Dゲルプリンターを用いて体の一部を製作する。テレポーテーションのように体の一部を〝送信〟する試みは、クリスマスのカップルにどのような影響を与えるのか興味深い。ちなみに、成人女性の耳たぶのやわらかさは17キロパスカルでかまぼこと、成人男性のくちびるは56キロパスカルでどら焼きと同程度だという。遊び心いっぱいの企画が、新たな進歩の契機となるかもしれない。古川教授は「それにしても、赤ちゃんの顔がそれぞれ全く違うのには驚きました」と楽しそうに語り、クリスマス企画にも視線を向けた。
同イベントは今月25日まで開催中。入場無料。平日はやわらか記念写真のサンプルなどが展示される。撮影への参加には事前予約が必要。詳細はマイラボ渋谷の公式サイトまで。