録画機器の普及で「心霊現象」の目撃談が〝淘汰(とうた)〟されているという見解がある。現代の怪談を取材収録した「新耳袋」シリーズの著者で、怪異蒐集家の木原浩勝氏は、その一例として「タクシーや車に現われる幽霊体験談がドライブレコーダーの搭載増加に反して激減した」と指摘した。一方、録画機器の高性能化によって、心霊現象を狙って撮影された映像が「証拠」として記録されたという。9月下旬に都内で開催された上映イベントで衝撃的な映像が公開された会場に足を運び、ゲスト出演した木原氏、主催したニュースサイト「トカナ」の角由紀子編集長らに話を聞いた。
これまで、いわく付きのスポットで心霊映像撮影に挑んできたシリーズ最大の問題作「怪談新耳袋Gメン ラスト・ツアー」(2021年公開)の上映イベントで、本編ではカットされた秘蔵映像が公開された。中でも、都内のビル内にある劇団のスタジオ(稽古場)で昨年撮影された「天井から現われる白い手と腕」が衝撃だった。
心霊現象が日常的に起きているというビル内の一室。目撃者の証言を元に実証撮影を重ねて確定した出没箇所に向けてカメラを設置し、定点撮影を敢行。そこに映し出されたのは、突然、天井から現われた人間の腕のようなものだった。レントゲン写真のように半透明かつ真っ白。その腕には骨があるとは思えず、軟体動物のようにクネクネと動いている。手の指は虚空にある何かをつかもうとしているようにも、ピアノを弾いているようにも見える。そして数分後、腕はサッと天井のコンクリートに消えていった。
木原氏は「この世ならざるものを撮るために、沖縄、青森の八甲田山、兵庫の天空の城『竹田城』の奥…などに行って、人の形らしきものは何も撮れなかったのに、渋谷から車でわずか7分の某所にあったことで腰が砕けた」と回顧。「ライトの照り返しを受けておらず、光量と関係ない。つまり、これは発光物体です。1年間、ずっとテスト撮影をやった結果、ここに現われるというポイントを絞り、狙って撮れたダイヤモンドのような奇跡の映像です」と興奮冷めやらぬ表情だった。
角編集長は「知り合いは『CGなんじゃないの?』と言うんですけど、現場で撮影直後に映像チェックして確認しています。手はしっかり見えていて、消えていくのもリアルです。仮にCGだとすればお金かかりますかね?」と問うと、同作の佐藤周監督は「僕らには、そんなヤラセするお金はないですよ」と明言。木原氏は「CGは本編の制作費よりかかると思う。人工的に作るなら、いかにもCGのようには、逆にしません」とCG説を否定した。
「心霊スポット」という言葉があるが、確実に「この世ならざるもの」が撮影される保証はない。むしろ、「そういうものだ」と認識されている。そんな状況について、木原氏は「そもそも、行けば必ず撮れる場所を『スポット』と呼ぶのであって、『撮れるかどうか分からないが行ってみました』『たまたま撮れた』というのは違う。そういう通俗的な意味での『心霊スポット』とは別の道を探ってきた」と思いを明かす。
その上で、木原氏は「今回、Gメンの撮影前から『100%撮れる』と確信したのは実証撮影を重ねてきたからです。偶発的ではなく、現象として確実に撮れる場所。それが、この『手』を撮影できた稽古場であり、そこは『フェノメナ・ポイント』、つまり、現象が起きる場所『現象点』と言える。40年、50年も前から、テレビの心霊番組では証明映像がないから再現映像を作るしかなかったが、条件を整えれば『本物』と呼べるものが撮れる時代になった」と解説した。
撮影機材や記録精度の進歩と一般への普及が心霊現象を捉えることを後押しする。木原氏は「記録媒体の長時間撮影が可能になったことによって証明時代がやって来た。ドライブレコーダーが普及したから『車の怪』が減ったわけでなく、そもそも、そうした話が噂によって量産されていたということでしょう。本物の怪異には『裏付け』に近い何かが求められる時代。ここで人が亡くなったという事故物件、因縁や因果、呪いとも関係なく、現象として起きたことを映像で捉えて、みんなで共有できれば、それだけで十分です」と成果を口にした。
角編集長は「この『手』に関しては、CGなど入る余地がなく、現場の証言者もいて確実な現象です。木原さんもよく言われるんですけど、その場所で人が亡くなったとかの因果関係は一切なく、ただ〝幽霊〟がいるという映像的な現象が『本物の怪』なのかと思います。さらに上映を続けていけたらと思っています」と今後の展開をにらんだ。