お笑い芸人としてデビューし、番組MC、コメンテーター、ミュージシャンなど、多彩な活動を行うふかわりょう(48)が17日、新作エッセイ集「ひとりで生きると決めたんだ」(新潮社)を発売する。
丘にたたずむ1匹のヒツジ。ふかわが指さしたのは表紙だった。「これを見てもらえるだけで、僕はもう満足ですよ」。10年ほど前、毎年のように訪れていたアイスランドの郊外で撮影したものだという。タイトルも自身で決めた。
表紙を「ひとりで生きると決めたような、ヒツジの表情がどこか悲しい。しかも耳に管理用のタブがついている。このヒツジは、どうやっても群れでしか生活できなかったんです」と語った。群れからはみ出した1匹のヒツジ。その表情、耳のタグ。「そんな環境でも一人で生きるということを、言わざるを得ない状況というか、今回のエッセイ集は強さの表明ではないことを、表紙から汲み取ってもらえたらいいなと思います」と続けた。「ラテがないとラテアートは生まれない。ラテの部分がエッセイです。1ページ目から全部あとがきみたいなもんですよ。だけど、この本文がないと、この表紙は生まれなかった。そういう関係性です」と真剣な表情で吐露。そして〝ラテ〟を、次のように説明した。
「ソロキャンプ、おひとりさま、一人であることが注目されてる時代ですよね。でもこの本は、一人はいいよ、一人って楽しいよねって、そう考える人間が書いたものではない。一人だろうが何だろうが、今置かれた状況で、見える景色を堪能してほしいという思いがあります。人生の中で溜まった、心の中にある、よどみのようなものを出して、お湯で溶いているようなもの。だだ味わってほしい。押しつけがましいところが全くない、そうであってほしいと思います」
しっくりくる肩書きがない、人生が楽しくなる「週5日制」、「湘南」の定義…。前書きで「私が関心を持つことは、ほとんどの人が気にしないこと。重箱の隅を突くようなこと。なので、『どうでもいい』で簡単に片が付きます」と述べた通り、ふかわの興味をストレートに反映させた22編が並んだ。
その中で目を引くのが、明確に特定の個人とのエピソード、心情がつづられた2編。フリーアナウンサー、女優の田中みな実と、芸人の東野幸治が取り上げられたものだ。田中の助言から食習慣が変わったことを挙げ、初対面で感じた才能の片りんと現在の活躍に感心するとともに、自身に起こった好ましい変化を述べた「拝啓 みな実様」。東野の豪快で型破りな性格、感銘を受けた場面、そして心根の優しさを描いた「悪魔は愛情でできている」。ふかわは「直接話していない感謝を書きました」と語った。
田中を「デビュー当時の『あざとい』というキーワードが生まれる前、既にキラリと光る、芸能界における存在感がありました。向かい風を、離陸して上昇する飛行機のように利用したと思います」と、東野を「芸能界の説明書を作ってくれた恩人です。他にも感謝している芸人はたくさんいると思います。唯一無二で、日本の芸能界においても大事な存在」と評した。「田中みな美さんは多分すごくギリギリのところで戦ってる気がするので、穏やかな時間が少しでもあるといいなとは思います。東野さんにも、田中さんにも恩返しが多くできればいいな、と思っています」と誓った。ふかわにとって、その契機をつくったのが、今回のエッセイだったのだろうか。
文章を書くこと、書籍に対する思い入れが高まっている。「本に惹かれる気持ちが年々強くなっています。活動の場はテレビ、ラジオや他にもありますが、基本は言葉です。その世界が最も発揮されるのが本です。本を出し続けることで、結果としてテレビや他の場にも、いい影響を与えると考えています」と語り、さらに先に視線を向けた。「5年後、10年後、僕がこの世にいなくなった後でも、誰かがこのヒツジと目が合うかもしれない。ある意味、ヒツジは永遠に生き続けるわけです。そう想像すると、本をつくった甲斐を感じますね」と、優しい表情を浮かべた。ヒツジを、頼もしそうに見つめた。