アジカン、さだまさし、四畳半神話大系の中村佑介「僕はもう時代遅れ」イラストレーター20周年展

山本 鋼平 山本 鋼平
中村佑介が手掛けたASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム「ソルファ」のジャケット (C)ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ソルファ(2016)』 (C)Kioon Music
中村佑介が手掛けたASIAN KUNG-FU GENERATIONのアルバム「ソルファ」のジャケット (C)ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ソルファ(2016)』 (C)Kioon Music

 ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケット、森見登美彦、赤川次郎の書籍カバー、音楽の教科書表紙、浅田飴のパッケージなどで知られるイラストレーター、中村佑介さん(44)の個展「中村佑介 20周年展」が9日、東京・水道橋のギャラリー・アーモで開幕した。中村さんは「僕はもう時代遅れ」と評し、「それはとてもいいこと」と語った。

 どこか懐かしくて新しい作品に彩られた、20年の軌跡。完成イラストはもちろん、着色前の原画、アイデアスケッチなど606点が公開された。大阪芸術大在籍中の作品、オリジナル作品なども展示。アニメのキャラクターデザイン、エッセイ執筆など活動は多岐にわたる中村さんは「支えてくださったファンの方々にお礼、恩返しをしたい気持ちが大きい」と、心境を語った。

 仕事を「印刷物が本物になるのがイラストレーターだと思います。美術の名画のように、原画を見ることでマウントをとれる世界に、僕はいたくない。あの子も持っている、僕も持っていると、満足感を得られるのが印刷物の最も優しい部分だと思います。どの地域にいても安価に手に入れられますし」と語った。作画に取り組む前の準備を大切にする。著書を含めてさだまさしの全作品を集め、赤川次郎作品も可能な限り読破した。ラジオ「オールナイトニッポン」の全パーソナリティーを描く仕事では月~土曜日、半年分の番組音源を取り寄せた。

 「ラジオは、そのタレントさんの別の一面が見えるから皆が好きなわけであって、似顔絵を描く仕事じゃないと思うんです。タレントの別の顔を描くには、番組を聴かないと見えてこない。元々ラジオは好きですが、仕事なのでメモを取りながら、真剣に聴きました。そうするとコーナーの意図、ハガキ職人のこと、その空気感がだんだんと分かってくる。ものすごく時間はかかりましたけれど」

 入念な準備を行うからこそ、広告効果や販売促進といったクライアント側の意図をくみ取り、イラストのアイデアとも合致していく。過去に完全なダメ出しを受けた経験はないという。「だから僕、仕事のストレスはゼロですよ」と笑った。最近は表現規制が厳しくなったという声も聞こえてくるが「人を不快にさせることは、本質的には昔も今も変わらない。今は半分アマチュアの人を、SNSのフォロワーが多いから、といった理由で企業が起用するので炎上騒動が起きる。ちゃんと教えていないからだと思います」と意に介さない。「絵の才能は、それほどではないかもしれない。でも、たくさんのことに興味を持てて、知ることが楽しい。僕は人間が大好きです」とキッパリ。第一線を走り続けられる理由を、垣間見た気がした。

 一方で「自分は時代遅れ」と言い切り、それを「とてもいいこと」とも話す。

 「寂しそう、ひとりぼっちであることが共感を得られる時代が続いていましたが、ある編集者が『昔の恋愛マンガは好きな人と結ばれるまでを描いたが、今は最初から付き合っていて、幸せな様子をただ見せるものに変わった』と話していたように、若いイラストレーターが幸せ、喜びを素直に表現するようになりました。カップルが手をつないで歩くようなイラストレーションに需要があることは、テレビCMと同じように我々の仕事が一般的になったからだと思います」

 そう好意的に分析した中村さんは、対人関係が苦手だという。成人式にも参加しなかった。興味を抱いた対象に直接的ではなく、作品等の資料を通して迫ろうとする気質にもつながったのだろう。鮮やかな配色、大胆な構図、細部まで情報が詰まった背景が特徴の少女画が多いが「どこかすねた、成人式にも出ないような感情が評価されることから、成人式に出る人が『イラストは面白そう、続けたい』と言えるように変わりました。ネットで発表できる場が増えて、反応をもらえるようになったからだと思います。とてもいいことだし、うらやましい。でもカップルの幸せを僕が描くというのは、青春時代に固まった価値観を変えてしまうようで…」と述べ、「だから僕はもう時代遅れだと思います」と続けた。

 時代遅れという自己評価が卑屈に聞こえないのは、大阪在住のまま、多忙な日々を送るからだろう。今後の目標を尋ねると「この質問が苦手です。以前は東京五輪に関わりたい、と話していましたが。裏金問題が出たりしてね…」と残念そうに語り、「今は目の前の仕事です。クオリティーの高いものを作って、商品の売り上げにも貢献して、付き合いに頼らずに、できる限り長く続けたい」と誓った。温和な表情で重ねた「ニーズがないと続けられない」の言葉には、実感と確かな覚悟が宿っていた。

 展覧会は来年1月9日まで。開館日時、来場者プレゼント等の詳細は同展公式サイトまで。

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