紅茶への思い入れが強いティースタンド「Tea Press」(東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-6)が昨年11月にオープンした。立ち飲みやテイクアウトを軸に、小規模ながら味に妥協しないコーヒースタンドは根付いてきたが、その紅茶バージョンはまだ珍しい。
店長の鎌田玲さんが初めてのお客さんに言葉をかける。ストレートかミルクティーか、普段から紅茶を飲むのか、フレーバーティー(フルーツや花々などの香りをまとった紅茶)は好きか、求める風味は、など。会話を通じて茶葉を決め、基本は3分間の抽出を経てカップを手渡す。「マニアックな質問で喜ばれるよりも引かれることの方が多いかもしれません。二人のお客さんから同じ注文が来ても、別々にいれています。完全に私の自己満足ですけど」と笑った。セイロンブレンド、ロイヤルブレンド、ダージリン、アールグレイ、アッサム、ルフナなど10種類以上のメニューに加え、オリジナルブレンド、季節に応じた茶葉も用意。全て数えると30種類程度になるという。
代々木駅または原宿駅から徒歩10分。基本は週に1回、水曜日に午前11時~午後5時まで営業し、その後は同所で少人数の紅茶教室を開く。ある企業が日本茶の海外販売準備のため、ビルの1階エントランスに設置した広さ3畳ほどのスタンドが空き、コーヒーなどの他店と日替わりでスタンドに入るようになった。メニューで人気の「本日のティー」の風味は、「その日の気温や天気、茶葉の状態を考えて決めます」と〝紅茶脳〟をフル回転させる。
若者がデートで利用するタピオカティーなどを提供するスタンドとは、明らかに趣が異なる。水曜日以外は喫茶店や美容室、個人向けの茶葉販売を行う。企業や少人数向けの紅茶教室も開いてきたが、コロナ禍で難しくなった。
東京出身の鎌田さんが「紅茶でおかしくなった」と笑う人生の転機は、学習院大学1年生の時、所属していたヨット部の合宿にあった。「家からマグカップとティーバッグを持参して紅茶を飲んでいたら、当時の幹部から『何してるの。隣はコンビニだし、合宿所で紅茶をいれている人は見たことがない』と呆れられました。その時、何かが目覚めました」。紅茶専門店でアルバイトを始め、大学2年生で退部し、さらにその魅力に引き込まれた。大学卒業後に日本紅茶協会認定ティーインストラクターの資格を取得。勤務の紅茶メーカーで紅茶教室や販売促進を担当し、紅茶の楽しみ方をより幅広く伝えるため、フリーでの活動をスタートさせた。スタンドで扱うビスケットなどの菓子は、会社員時代の元同僚が手掛ける、神戸の人気店から寄り寄せる。
紅茶を日本でもっと親しみ深いものにする夢がある。「マダムのものというようなイメージを変えたい。敷居を下げて、日本茶と同じように気軽に飲まれるようにしたいですね」と思い描いた。人生を変えたボート部の先輩とは、友人の結婚式で再会したという。転機となったやりとりは「まったく覚えていなかったですね」と笑った。
※店舗の営業日、営業時間は鎌田さんのブログ「Ochakai Lesson <Raiy>」まで要確認。