『鎌倉殿』視聴者を震撼させ続けるアサシン善児 「負の役割」を担ってきた人物の集合体

濱田 浩一郎 濱田 浩一郎
画像はイメージです(Kalleeck/stock.adobe.com)
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 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の第20回「帰ってきた義経」では、またも、あの不気味な暗殺者が登場していました。そう、善児です。今回、善児は主人公・北条義時の平泉行に同行していましたが、それまでに、鎌倉にいた静御前の産んだ男子を殺害する非情な役割を担っていました。

 善児とは何者か?「鎌倉殿の13人」ホームページには、次のように記されています。「伊東祐親に仕える下人。祐親から信頼され、与えられた役割を淡々とやり遂げていく不気味な仕事人 」と。思い返してみると、善児は、元来、伊豆国伊東の豪族・伊東祐親に仕えていました。では下人とは何でしょうか。

 下人というのは、その言葉から分かるように「位が下の人」とか「身分が低い者」という意味があります。ですので、善児は、武器を持って、数々の人を殺してきましたが、武士身分ではありません。下人は主人のために、雑務をこなす存在。しかし、その存在は不安定であって、人身売買の対象となるような存在だったのです。善児は、そのような身分にあったのです。

 俳優・梶原善さんが演じる善児は、ドラマの中の架空のキャラクターです。しかし、ドラマの中で結構、重要な役割を与えられていました。初回において、頼朝と八重の間にできた千鶴丸を川に沈めて殺したり。北条義時の兄・宗時を刺し殺したり。主君である伊東祐親とその子・祐清を躊躇(ちゅうちょ)なく殺したりしてきたシーンに、視聴者は戦慄してきました。そして、今回は、静御前が産んだ男子を殺してしまったのです。

 『吾妻鏡』においては、頼朝の命を受けて静の子を殺したのは、安達新三郎という雑色でした。雑色とは様々な雑務を担った幕府の下級職員のこと。静は捕縛され、京都から鎌倉に来て以来、安達新三郎の邸で起居していました。新三郎は、静に男子を渡すよう迫りますが、静は子供を離さず、数時間も抵抗。しかし、静の母(磯禅師)が、新三郎を恐れ、隙を見て、静から子を奪い、新三郎に渡してしまうのです(『吾妻鏡』)。こうして、無惨にも、幼子は由比ヶ浜で殺されてしまったのでした。

 ドラマの中で多くの者を殺めてきた善児ですが、モデルがいると言われています。それは、北条義時に仕えた武士・金窪行親です。二代将軍だった源頼家の家臣が謀反を企てているとの情報が入ると、義時の命令を受けて、彼は、あっという間に、謀反人たちを殺してしまった。

 善児の「腕の良さ』に似たものを感じますが、これまで見てきた事を総合して考えていくと、善児とは、金窪行親のみならず、安達新三郎など「負の役割」を担ってきた人物たちの集合体のように思います。

 脚本家の三谷幸喜氏は、とんでもない「化物」を産み落としたものです。しかし、その「化物」の所業もまた我々人間の一面ではあります。

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