注目の若手作家、下家杏樹氏の新作展示会「MUTATION」が東京・中央区の蔦座蔦屋書店で15日から開催されている。1996年生まれ、愛知県出身の同氏は、手塚治虫や杉浦茂、藤子不二雄、吾妻ひでおなどから影響を受け、レトロポップな漫画を思わせる画風の持ち主。東京アートフェア2021での作品完売や欧州のギャラリーからオファーが集まるなど、国内外から注目を集めている。入場無料で来月5日まで。展示作品は店頭かオンラインで販売される。
漫画・アニメをモチーフとした作品が注目されている昨今のアートシーン。下家氏は名古屋芸術大学大学院美術研究科を修了し、最近の主な展覧会では「だれにもナイショで展」(20年、NODA CONTEMPORARY、愛知)や「アートフェア東京2021」(21年、東京国際フォーラム)に参加した。日本美術の特徴のひとつである筆による線の表現を大切にして作品を制作し、柔らかな線で描かれた人間や動物、植物すべてに命を与えるような大らかな世界観を感じさせ、鑑賞者を独創的なユートピア世界に誘い込む。作品は同氏が日常生活で出会った様々な物事や感情のメタファーであり、脳内にあるワンダーランドを表現。ユートピアのようだが、ディストピア的な様相もある。
同展では、さまざまな動物をテーマとした作品を展示することで、多様性に満ちた私たちのいる世界を表現。また、家にこもる生活の中で改めて動物や植物の重要さに気がつくようになったことも新作制作の根底にあるという。下家氏ならではのフォルムを作り出す線の太さの強弱と油彩の筆跡、使用するマチエールの有機的な質感で描いた作品を楽しむことができる。
下家氏は「小さい頃に漫画やアニメに影響を受け、手書き友禅の伝統工芸師であった祖父と一緒に絵を描いたり、絵を描いて食べていくということについて学んだことが私の根底にある。この頃から漫画を描いていたが、成長とともに自分は物語ではなく、感動のシーンだけを描きたいことに気き、いろんなシーンが混ざり合った一枚絵を描くようになった。今回の展示で動物をテーマにしているのは個性の多様性に着眼したからである。様々な種類の動物を同じ空間に置くことで、私たちが生きている世の中のようなものを表現したかったのだ。最近は家にこもることで動物や植物の重要さに気がつくようになったこともあると思う。作品表現で、特に注視してほしいのはアウトラインである。最後に打ち出された線と、面と面を挟んで生み出される線。レイヤーごとに線の色を微調節しているので、物理的に奥行きを出すということに重きをおいて表現をした」とコメントした。