2013年公開の「凶悪」で注目され、17年から2年連続でブルーリボン賞監督賞を受賞するなど、多彩な作品を生み出している白石和彌監督の新作「孤狼の血 LEVEL2」が20日に全国公開される。18年公開の第1作「孤狼の血」に続き、警察組織と暴力団とのはざまで奔走する刑事役の松坂桃李、新たに「日本映画史上に残る悪役」上林を怪演した鈴木亮平ら注目のキャストや作品の背景、ロケ地の広島などに込めた思いを白石監督に聞いた。
松坂は、前作で圧倒的な存在感を放った役所広司演じる先輩刑事の死後、その役目を継いで裏社会の顔役として警察組織、暴力団の双方から一目置かれる存在となるマル暴刑事・日岡を演じる。鈴木は己の破壊衝動のもと、自らが恨みを抱く人物の身内や、所属する組織の上層部も情け容赦なく抹殺してのし上がる凶暴なヤクザ・上林になりきった。また、日岡のエス(スパイ)として上林組に潜入するチンピラ役の村上虹郎、日岡の相棒となる定年間近の刑事役に中村梅雀…という配役の妙も光った。
中でも圧倒的な存在感だった鈴木について、「日本映画史に残る悪役に」と本人にオファーした白石監督は「それは口説き文句で、色気のある言葉で誘わないと。役者はそういう言葉に感化されて作り込んでいくので」とした上で、「彼(鈴木)は耳がとがっているのが特徴的で、本人はそれがコンプレックスだと言ってたんですが、そこに『悪魔感』があった。見ているうちに悪魔に見えてくる。残忍な殺し方は1980年代の米国ホラー映画テイストで」と指摘。また、「虹郎がたぶん一番(観客が)共感しやすいというか。(警察と暴力団の)両方の間に入って恐怖を味わうという役で。梅雀さんは喜々としてやってくれましたね(笑)」と振り返った。
広島が舞台という設定において、前作は「仁義なき戦い」シリーズ5部作(深作欣二監督)と比較された。白石監督が生まれた74年に完結した同作のロケ地の多くが京都だったのに対し、「孤狼~」は広島ロケを敢行。時代設定は91年。バブル景気の末期、暴対法施行前年だ。広島という土地へのこだわり、鈴木のキャラクター設定を明かした。
「広島に行かなかった『仁義なき戦い』とは唯一、違う色を出せるかと思って広島に行った。それが正解だった。呉(映画では呉原)の街並みが、いい感じで時間が止まっていて、その時代感をギリギリ撮れる感があった。一方で『仁義なき~』は戦争をひきずった人たちの話で、脚本の笠原和夫さんもそうでしたが、『孤狼~』の場合はそれができないのでアイデンティティーの作り方が難しかった。ビジネスで金もうけにしか興味がないヤクザの幹部に対し、自分の生き方を曲げられない上林が出所してきて衝突するのですが、深作監督の『やくざの墓場 くちなしの花』(76年)でも描かれた、今に至るまで連綿と続いている民族差別だったり、そういう所から暴力が生まれてくるという点に上林のアイデンティティーを見つけていった。(回想シーンで描写される)上林が子供の頃に過ごした場所は『基町アパート』といって、もともとは原爆スラムだった地域に作られた巨大アパート。そういう歴史を少しでも感じてもらえたらと」
ただ、そうした出自についての説明的なセリフはない。映像で感じる平成初期に残る戦後昭和史の重さをかみしめつつ、クライマックスでのカーチェイスなどアクション映画の要素も濃厚だ。
白石監督は「ゼロ年代以降、日本映画がやれていないことをアジア各国はやっていて、世界と戦っている。それって悔しいじゃないですか。今すぐには取り戻せないけど、誰かがやっておかないと。まだまだ至らないところもあるんですけど、頑張ればまだやれる」と意欲的だった。
公開前で気の早い話だが、試写でエンディングを見て、第3弾の可能性を感じた。前作について「続編のことなど考えず、1本目で完結させるつもりで作った。後先考えずに、その時のベストを尽くした感がある」と語った白石監督。当然、今回も同様だろう。その上で、白石監督は「レベル3も、可能性があればですけど、いろいろ考えようはあると思います。桃李くんは『監督、このまま終わりたくないです』と言ってたんで、どうなることやら(笑)。ここまで来たらあと1本、という欲は出ますけど」と含みを持たせた。