2020年9月にコロナ禍で閉店した大阪府吹田市の老舗ライブハウスTH HALL(ティーエッチホール)が、新しいライブハウス「TH-R HALL」(ティーエッチアールホール)として2021年6月に復活した。
1996年11月、阪急関大前駅すぐの学生街・関大前のビル2階にオープンしたTH HALLは、約280人を収容する地元密着型のライブハウスだった。地元・関西大学の軽音サークルや、沿線にある高校の軽音学部などが新歓ライブなどで使用。学生時代、ステージに立ったミュージシャンや有名人も多い。
作詞作曲家、シンガー・ソングライターで、大ヒットしたLiSA「紅蓮華」の作曲としても知られる草野華余子さんは、閉店直後のツイッターで「初めてライヴしたライヴハウスが失くなってしまう。今わたしが音楽を続けられているのも、関西大学軽音楽部やそこでの出会いや素敵な環境があったから。悲しい」と、突然のクローズを惜しんでいた。
当時の運営会社は、公式ウェブサイトで「存続の道をぎりぎりまで模索しました」としていた。コロナ禍によるイベント自粛や、各大学がクラブ・サークルに集客を伴うイベントを認めないと通達。ホールレンタルの主力だった軽音サークルなどのライブがキャンセルになり、2020年9月をもって営業終了すると説明。ラスト3日間は無料開放され、多くのファンが押し寄せた。
関西大学出身のミュージシャンで、DJライブキッズあるある中の人こと三木要さんが閉店を聞きつけ、東京・大阪などでライブハウスを運営する音楽事務所・LD&Kに直談判。同社の協力を得て復活にこぎつけた。
三木さんは学生時代、TH HALLのステージに立った。ライブハウス「神戸VARIT.」での勤務経験があり、大学生の音楽フェスも主宰する。「すごく残念だと思ったし、大学生が活動できないっていうのはすごく聞いていた。演奏できる場づくり。場所を運営することが音楽シーンにとって、一番大事なことなんじゃないかと考えて、やることにしました」と、学生街唯一のライブハウス復活に情熱を注いだ。
TH HALLの裏名物となっていたのが、楽屋の壁一面に書かれた出演者による無数の落書きだ。1996年のオープンから、誰ともなく受け継がれた出演者たちの“青春の叫び”は圧巻。閉店で取り壊されると思いきや、新しいライブハウスでもそのままになっている。
かりゆし58やガガガSP、打首獄門同好会などのミュージシャンが所属するLD&Kの大谷秀政社長は、三木さんの意を受け空店舗となったライブハウスを内覧した際、楽屋の壁に触れ「あれは残す」と決断したという。
三木さんも「僕も消すなんてできないなと思っていた。壁残すなら、残さなあかんやろってなった」と話す。運営会社が変わるため全く違う名前のライブハウスになる可能性もあったが、リターンズやリニューアルの頭文字「R」を付け、TH HALLの名前は存続。無数の落書きも、闇に葬られることなく歴史を刻み続けている。
大阪府への緊急事態宣言発出で5月6日のオープン予定は延びたが、一度は消えた学生街のライブハウスに騒がしい音色が戻ってきた。店長としてTH-R HALLを切り盛りする三木さんは「地元密着ですね。大学生や地元沿線の高校生とか、バンドマン・アーティストが集まって、羽ばたいていける場所。社会に出て行くステップとして、羽ばたいて行ける場所になればいいんじゃかなと思っています。シーンをつくりたい」と力を込める。
自身のコネクションでTH-R HALLに大物アーティストを招へいする気はなく、あくまで大学生の音楽活動をどう盛り上げるかが課題だという。「コピバンやってた子らがオリジナルになって、売れる可能性とかあるわけじゃないですか。そうなったら“三木さん、一緒に来て下さい”ってツアー一緒に行ったりとか面白いじゃないですか」と夢を語った。