青弓社は22日、今年5月末に出版した花岡敬太郎『ウルトラマンの「正義」とは何か』の販売を停止し、回収の措置をとり、在庫をすべて断裁すると発表した。ノーベル賞作家の大江健三郎氏の議論としてまとめている記述全般に誤りがあり、「当該箇所を含めて本書全体の事実関係の再確認と、正誤表(対照表)では対応できない修正の必要があることを踏まえ」としている。
出版社と著者の連名で、以下の文章が発表された。
切通理作氏は、『映画宝島 異人たちのハリウッド』(JICC出版局、1991年)に執筆した原稿「ウルトラマンと在日朝鮮人 単一民族幻想に挑んだふたりの沖縄人作家」、およびその原稿の内容を含めて膨らませた単行本『怪獣使いと少年――ウルトラマンの作家たち 金城哲夫・佐々木守・上原正三・市川森一』(宝島社、1993年)で、大江氏による『ウルトラマン』をめぐる議論を批判的に検証しました。その切通氏の議論を、『ウルトラマンの「正義」とは何か』で著者は誤って大江氏のものとして要約しました。つまり、実際の大江氏の主張と『ウルトラマンの「正義」とは何か』の要約は正反対の内容でした。
したがって、大江氏が「制作関係者以外で、『ウルトラマン=沖縄』の構図を指摘した」初めての人物であるという65ページの指摘も事実に反し、大江氏と佐藤健志氏を照応させた対立構造も正しくは大江氏ではなく切通氏と佐藤氏との対立構造ということになり、この点についても著しく正確さを欠く内容になってしまいました。
また、当該箇所は先行研究を整理する際の事実誤認です。先行研究の整理は、それらの成果を踏まえ、著者の立場を明らかにするうえでも重要な箇所であり、本書の位置づけを明確にするという観点からも大きな誤りでした。
上記に関して、編集部も校正段階で確認を怠りました。
切通氏ご本人からいただいた指摘や読者のみなさまの意見を真摯に受け止め、内容の誤りを認めて、心からお詫びを申し上げます。
青弓社編集部/花岡敬太郎
これを受け、切通理作氏がよろず~ニュースの取材に応じた。「もともと出版を楽しみにしていた本でした。ある書評の仕事で読んだところ、単なる事実誤認ではなく、先行研究を乗り越える主題にも関わらず、先行研究の前提が完全に間違っていて、大変驚きました。いつか改めて本が出し直される時が来た際は、読みたいという気持ちはあります。書評を引き受けることもあるかもしれません」と話した。