経済関連ニュースでおなじみの「日銀」こと日本銀行だが、都内にある本店の建物を上空から見ると、日本の通貨単位である「円」という漢字をかたどった形になっているという都市伝説がある。ジャーナリストの深月ユリア氏が識者の見解を聞いた上で、日銀側にその真相について確認した。(文中敬称略)
◇ ◇ ◇
日本銀行本店の建物を上空から見ると、「円」の形に見える…。そんな話をご存知だろうか。東京・日本橋に威風堂々と構える日銀本店は、1896年(明治29年)に竣工した。設計を手がけたのは、明治から大正期にかけて日本建築界を牽引した辰野金吾。東京駅丸の内駅舎をはじめ、日本の近代建築を象徴する数々の名建築を残した天才建築家である。
同本店が建てられた当時、日本の通貨表記は現在の「円」ではなく、旧字体の「圓」が公式に用いられていた。「円」という略字自体は明治期から存在していたものの、国として正式に採用されたのは戦後のことである。1946年に告示された「当用漢字字体表」以降、「円」は公的表記として定着し、硬貨では1948年発行の1円・5円硬貨から、紙幣では1950年発行の千円紙幣から本格的に使用されるようになった。
その本店を上空から眺めると、建物が築かれた当時の通貨表記である「圓」ではなく、現在の「円」という文字をかたどったかのような形状をしている。この事実から、「単なる偶然なのか」「未来を見越した意図的な設計なのか」といった思いを巡らすことになり、長年にわたって都市伝説として語られてきた。昨年12月26日に放送されたテレビ東京系「ウソかホントかわからない“やりすぎ都市伝説”2025冬」でも、この話題が改めて取り上げられていた。
都市伝説に詳しい作家・山口敏太郎氏はこの現象について「上空から見ることで初めて意味を持つ形は、世界各地に存在する」と指摘した上で、「例えば、ペルーのナスカの地上絵、日本では香川県観音寺市にある巨大な銭形砂絵がその代表例だ。地上に立っている限りでは全体像が把握できず、空から見て初めて明確な意味を持つ―。そうした造形は偶然とは考えにくい」と説明した。
ナスカの地上絵には砂漠の地表に巨大な動物や幾何学模様が描かれているが、地上では全体像を把握することができず、上空から見て初めて明確な形として認識される。誰が、何の目的で描いたのかは、いまだ解明されていない。「銭形砂絵」は「寛永通宝(江戸時代から明治時代まで長く流通した日本の代表的な銅銭)」をかたどっていて、観音寺市にある琴弾山(ことひきやま)から見ると円形に見える。「この砂絵を見ると健康で長生きし、お金に不自由しない」という言い伝えがあり、パワースポットとして親しまれている。
「日本銀行が円の形に見えるのも、偶然ではありません。意図的にそう見せているのです」と山口氏は断言する。もし、それが事実だとすれば、辰野金吾、あるいは当時の国家中枢が、通貨「圓」が「円」となる未来を見据えた象徴的建築を密かに仕込んでいた可能性も浮かび上がる。
そこで、山口氏の説を受けて、当の日銀本店に問い合わせたが、広報担当者は筆者の取材に対して「建設に関する資料が関東大震災(※1923年)で燃えてしまい、分かりません」と回答。「辰野金吾の意図」についても「資料が燃えたので分かりません」ということだった。
真相は依然として謎のまま。都市伝説の域を出ない話ではあるが、日本の金融の中心に位置する建築の謎にロマンを感じる。