まるで〝裏エヴァンゲリオン〟だと、SNSでじわじわと注目度が高まっている。漫画『ロマンガロン』(青林工藝舎)は3月に単行本が発売され、死者の魂で動く謎のロボット・ロマンガロンが東京・多摩地区を突然襲うロボットを撃退しながら、その正体や分断された日本が描かれる異次元SF少年漫画。エヴァンゲリオンの設定を一部拝借したという作者まどの一哉氏を取材すると、意外なエヴァとの関わりがあった。
機体ナンバー「01」が〝エヴァっぽさ〟を醸し出す作画。楽しくて不安な、単純で複雑な、分かるようで分からない、足場が定まらない独特な世界観が魅力的だ。唐突に敵が来襲する冒頭を、まどの氏は「東京の西部地区に首都に匹敵する都市があって、そこに正体不明の使徒がやってくるという設定です」と借用部分を語った。その一方で「私が短編漫画を連作していた『QJ』(クイックジャパン)誌で96年にエヴァ特集がありましたが、私は興味がなくテレビアニメを見たことはありません。コミックは病院の待合室で第1巻のみ読んで面白かったです」との出来事だけが直接的な関わりだ。大ヒット中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は当然見ていない。「テーマは特になく、ロボットという設定が楽しそうだったので」。モチーフではあるが、オマージュやパロディではない。
14~15年にwebコミック媒体「放電横町」に連載された同作。話題になりそうな時期を狙った単行本化と思いきや、青林工藝舎の手塚能理子氏は「一番の理由は弊社の資金繰りがうまくいかなかったことだと思います。人が少ない貧乏会社なので、お金と時間のやりくりが難しいです」と説明。「単行本化が遅れに遅れて発売したら、たまたまその時期だった、ということです。常に赤貧の弊社ですが、たまには小さな奇跡に乗っかることもあります。今読んでも〝ああ、やっぱり誰にも描けない、まどのさんにしか描けないマンガだな〟と強く思います。そのような作品を世に送り出すことが弊社の使命の一つと思っています」と続けた。
とはいえ「今まで私を知らなかった一般読者にも届いているような気がします」(まどの氏)、「これまでのまどのさんの単行本の中では、一番話題になっていると思います」(手塚氏)と手応えが上々であることは事実。まどの氏は作品を「案外よく描けている」と振り返り「誰か映像化してほしい。フィギュアを作って売ってほしい」と期待を寄せた。
まどの氏はグラフィックデザインで生計を立て、漫画家としては1976年に「ガロ」でデビューし、1年で5作ほど発表したが、80年に別冊宝島に1作、その後90年代中盤にQJを舞台にするまでは創作活動を離れた。放電横丁での『カゲマル伝』『愛と戦いの船』、アックスでの連作短編、電脳マヴォでの『三角帽子』、QJでの連作短編など未単行本化の作品は多い。「死ぬまでに今まで描いた作品を紙の本で出版することです」と今後の目標を抱く。ロマンガロンの勝どき「ロマ~ン!」のごとく、今作が新しいロマンを呼ぶかもしれない。
◆まどの一哉(まどの・かずや)1956年8月生まれ、大阪府出身の64歳。美学校絵文字工房(講師・赤瀬川原平)卒。1976年「ガロ」(青林堂)12月号にて「運命男」でデビュー。デザイナー、広告代理店勤務後、90年に夫婦で独立し、エディトリアルデザインを中心に活動。その後「QJ(クイックジャパン)」「アックス」「電脳マヴォ」「放電横町」などで作品を発表。2010年に自身初の単行本『洞窟ゲーム』を発表。主な著書に『世の終わりのためのお伽話』『西遊』