「AnimeJapan2021」が3月27日から30日にオンライン開催され、29日のアニメビジネスセミナーでは「クリエイター・企業・顧客を繋ぐアニメコラボ」講座が開かれた。注目される作品のキャラクター、世界観をどのようにしてコラボレーション企画に落とし込み、顧客との接点を作っていくのか。三越伊勢丹の取り組みを紹介したい。
森玲治氏は大手百貨店の三越伊勢丹で、EC・メディア推進部メディア芸術担当ディレクターを務める。1996年にECサイトを立ち上げて以来、カタログ、TV、EC等の非店頭コマース部門に従事。ECサイト、通販専用物流センター、コールセンターの構築等、基盤整備から実際のサイト運用まで幅広く経験した。2020年4月よりメディア芸術分野への本格進出を計画し、チームを構築している。
百貨店の市場規模が縮小する一方、拡大するアニメ市場に注目した。アニメ・マンガ等はサブカルチャーから、「メディア芸術」としてメーンカルチャーに進化したと定義。伝統工芸や伝統芸能の振興に寄与してきた同社の実績を生かし、新たなサービス提供を目指している。森氏は「三越伊勢丹がメディア芸術の世界になくてはならない存在だと、皆さんに認めてもらえる基盤を確立したいと考えています」と、目標を語った。
事業をどのように拡大させるのか。仕入れと販売という従来の売買差益から3つの新基軸に挑んでいる。森氏は昨年12月に日本橋三越本店で行われたアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」とのコラボ事業を挙げ、それぞれ説明した。
一つは価値の高い限定商品を受注生産する「現物販売レイヤー」。在庫リスクが低減され、購入者の満足度も高い。気鋭のイラストレーター・チャイコフ氏が手がけたジグレー版画「銀河日本橋回廊版画」=3万8500円(税込)=は、限定100枚が完売した。
一つは有料展示会やカフェでのコラボメニュー提供により、顧客の来場数や満足度に貢献する「店頭活用レイヤー」。有料資料展示は5日間開催され、事前予約のみで2400人が来場。コラボメニューを求めて1カ月間で約800人が来店し、2日前までに予約が必要なため、食材ロスを抑えることにもつながった。
一つは多様な可能性を持つ「デジタル販売レイヤー」。監督や声優が登場した有料ライブ配信ではトークショーなどのコンテンツに加え、商品を紹介することで販売促進にもつながった。
コラボ事業では、従来の客層とは異なる来場者が多いだけに、SNS上で登場する機会が格段に増えた。また、有料展覧会の来場者には従業員から積極的な声掛けを実行。従来の展示会とは異なる接客姿勢で、貴重な意見を直接収集した。
昨年4月から本格化した活動。コラボを成功させるためには、版元との意思疎通が重要だ。森氏は「コミュニケーションが大事です。最初にゆっくり時間をかけ、決まったら一気かせいに行く。このメリハリが大事です」と語った。百貨店の活性化だけにとどまらない価値を、創出していくつもりだ。