「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロゲーマー・すいのこは、ライターの顔を併せ持つ。WEB媒体を中心に、eスポーツで活躍する選手や周辺トピックスを紹介している。
東大卒ときど、東大卒弁護士こへう、ゲームを通じた英会話教育事業…eスポーツ愛好者に限らない読者に向け、客観的な記事を届けている。コラムや自伝的な語り口が多いプロゲーマーでは、異例のスタイルだ。昨年4月、自身初の著書『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』の発表がきっかけだった。
「執筆の話をいただいて、せっかくの機会だからと、お受けしました。その後、編集者の提案でライターの仕事も始めました。執筆活動はいつか競技を続けられなくなった時に、人生の選択肢を広げる意味もあります」
日本ではゲームの賞金だけで生計を立てることが難しい。ほぼ全てのプロゲーマーがゲームの鍛練だけでなく、ネットでの動画配信やイベント出演、SNSを用いて自身の価値を磨く必要がある。すいのこは執筆を通して、自身のためだけでなくeスポーツ業界の認知度、環境の向上も願う。
「すごい人をもっと多くの人に知って欲しい。その軸は今もぶれていません。特にときどさんは努力の天才、勝つために何が必要か真剣に考え、徹底する姿はプロの中のプロ、アスリートそのものと思います。eスポーツの偏見を正すような事は考えていませんが、こういう世界があると、否定的にも肯定的にも知ってもらうことが大事だと思います。そのきっかけをつくりたい」
eスポーツの〝ハンデ〟は理解している。身体能力の限界に挑むスポーツでは、マイナー種目でルールを知らない者にも、感覚的に運動自体の魅力が伝わりやすい。eスポーツでは、ルールなど前提条件を知らなければ、プロゲーマーのすごさや一瞬の好プレーが分かりにくい。
「情報の発信を続けるしかないと思います。例えばゲームを知らなくても、僕に興味をもってもらえれば、じゃあ大会に出ているので見てみよう、じゃあゲームを調べようとなるかもしれない。ゲームのスキルだけでなく、タレント性が必要とされています。タレント業に近いところはあると思います」
eスポーツの認知度は格段に上がっているが、若者以外で歓迎している層は少ない。ただ、今や国民的人気を誇る野球や、クールジャパンともてはやされるマンガやアニメでも同様の時代があった。文化や産業としての進歩が、多くの問題を解決するはずだ。
「前の世代の種が実を結びつつあり、プロゲーマーを目指している子供は増えているが、野球やサッカーに比べたときに、トップクラスの実力を持っていても、それだけで食べていける人がまだ少ない現状では簡単にはすすめられないです。興行としてビジネスモデルが確立するなどして、プロゲーマーが〝eスポーツだけで生活できる仕組み〟ができないといけない。僕たちが次の世代のために頑張りたい」
様々な形でeスポーツを知ってもらう活動を行う一方、競技だけに専念できないもどかしさはある。それでも「華やかなプロだけの世界にはなってほしくない。趣味だったり部活だったり、遊びや楽しさを大事に発展してほしい」と語る際、その表情は穏やかになった。楽しい遊び―ゲームの原点は忘れずに腕を磨き、ペンを走らせる。
◆すいのこ 1990年、鹿児島県生まれ。本名・桑元康平。鹿児島大学大学院で焼酎製造学を専攻。卒業後、大手焼酎メーカー勤務を経て2019年5月より、eスポーツのイベント運営等を行うウェルプレイド・ライゼスト株式会社のスポンサードを受け「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズのプロゲーマーとして活動中。