春になると、くしゃみや鼻水、目のかゆみに悩まされる花粉症。国民病ともいわれるこのアレルギー疾患について、近年「腸内環境」との関係に注目が集まっている。
花粉症は、体内に侵入した花粉を免疫が異物と認識し、過剰に反応することで起こる。東京・赤坂ファミリークリニックの伊藤明子院長は、その仕組みについて「花粉が鼻や目の粘膜から侵入すると、白血球がIgE抗体を作ります。この抗体が、免疫細胞のひとつであるマスト細胞にくっつきます。再び花粉が体内に入ると、マスト細胞の抗体が花粉と結合し、ヒスタミンなどの化学物質が放出され、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった症状が現れます」と説明する。
この免疫反応の調整役として重要な働きを担っているのが腸だ。体内の免疫細胞のおよそ7割が腸に存在し、腸は「最大の免疫器官」とも呼ばれる。
「口から入る病原体やウイルス、細菌などを排除して、食べ物の栄養を吸収する仕組みが腸にあります。腸内環境が悪化すると、免疫システム全体のバランスが崩れて、アレルギー症状を引き起こしやすくなります」と伊藤院長は指摘する。
花粉症との関連で研究が進んでいるのが、「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」。腸内細菌叢とは、腸内に生息する多種多様な細菌の集まりのことで、腸内フローラとも呼ばれる。
「次世代シーケンサー解析(遺伝子が分かる解析方法)の研究で、腸内細菌叢の多様性が低い人ほど、花粉症を発症しやすく、症状も重くなりやすい傾向が示されています。関連する論文もすでに十数本に上っています」と伊藤院長は話す。
腸内環境が整って「善玉菌」が優位であれば、アレルギー症状を抑える制御性T細胞が活発に働く。「悪玉菌」が増えると腸の粘膜が弱り、炎症反応が悪化するとされている。この「悪玉菌」を増やし、腸内環境を悪化させる生活習慣には注意が必要だ。特に、脂肪分や糖分の多い食事が続くと、腸内細菌叢のバランスは崩れやすくなる。
伊藤院長は「ジャンキーなものを多食している、高脂肪食摂取が多い、飲酒量が多いとアレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎の症状が改善しづらい、または悪化します。睡眠不足も腸内環境を悪化させます」と警鐘を鳴らす。
ただし、花粉症は腸内環境だけで決まるものではない。伊藤院長は「花粉症の発症は複雑な要素が絡み合っているので、腸活だけで治るとは言えません。アレルゲン(花粉)への曝露(ばくろ、日常生活でさらされていること)がどれくらいあるのか、腸内環境も千差万別なので一概には言えない」と話す。
腸内環境を整えれば花粉症が治ると単純に考えるのは現実的ではないが、伊藤院長は症状改善のために体質を底上げする「治療介入」と位置づけている。「花粉症がひどい時期は、免疫の過剰反応で腸の調子が悪くなり、下痢や便秘を引き起こすこともあります。また、腸内環境が悪いと、他のアレルギー(アトピーや喘息)を引き起こすリスクも高まります。腸内環境を整えることは、根本的な体質改善を目指す上で重要で、脳機能の強化改善にも有効です」と、その意義を強調する。
具体的な取り組みとしては、「善玉菌」を含むヨーグルト(特にビフィズス菌)や納豆、キムチ、みそなどを日常的に摂取し、「善玉菌」のエサとなる野菜や果物、海藻、豆類を食べること、特に小麦ブランやもち麦といった発酵性食物繊維を豊富に含む食材が有用だという。もちろん、生活リズムの見直しも大切だ。
腸内環境を整えることは即効性のある対症療法ではない。しかし、免疫の働きを内側から支え、花粉症と向き合うための基盤となる。本格的な花粉シーズンへ、日々の生活習慣を見直す視点が、花粉症対策として改めて求められている。
◆伊藤明子(いとう・あきこ) 小児科医、赤坂ファミリークリニック院長。NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京大学医学部附属病院医師。東京大学大学院医学系研究科研究員。