老後はゆっくり暮らしたい。できれば、定年の60歳で退職して年金も早くもらって。「老後2000万円」の“パワーワード“が世に出てから久しいが、いくら貯金しておけば安泰なのだろうか…。シミュレーションしてみよう。
持ち家に夫婦2人暮らしのTさんは、もうすぐ還暦。子供も巣立ち、60歳での定年退職&年金繰り上げ受給を考えている。男性の平均寿命は81.09歳(2023年、厚労省)。ひとまず、81歳まで生きるとして、収入と支出は-。
会社員男性の年金平均月額は、16万6606円(2023年、同省)。60歳で繰り上げ受給すると24%減額されるので、12万6621円となるが、分かりやすく12万5000円として計算する。
高齢者夫婦世帯の月平均の支出は、28万2497円(2023年、総務省)。米も野菜も光熱費も値上がりしていることを踏まえ、29万円として計算する。
赤字は月々16万5000円、1年で198万円だ。
ちなみに、同い年で専業主婦の妻は、65歳から国民年金を月々5万6000円受給すると設定。
妻の年金が入る65歳までは、5年間で990万円の赤字となる。
65歳から妻の年金が入るので、赤字は月々10万9000円。年間で130万8000円だ。81歳までの残り16年では、2092万8000円となる。
60歳から合計すると、不足分は3082万8000円となる。大変な金額だが、必要なのはこれだけではない。
リフォーム代100万円、子供の結婚祝い金など200万円、介護費用(2人分)1000万円、葬式供養代(同)400万円など、その他費用1700万円を計上すると、不足分は4782万8000円となる。
さらに、女性の平均寿命87歳まで妻が生きるとする。
単身高齢者の月平均の支出は15万6000円。収入は自身の年金5万6000円と夫の遺族年金(7~10万円ほど)で、仮に8万円とすれば、月々2万円の赤字となる。65歳の妻が87歳まで暮らす6年間で144万円足りない。
4782万8000円と144万円を足すと4926万8000円。夫婦そろって平均寿命という前提ですら、5000万円近い額が必要となる計算だ。人生100年時代。夫婦そろって長生きしたら、毎年130万円強が不足し、もしローンなど借金が残っているならさらに…。
果たして、このシミュレーションは大げさなのだろうか。独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)として活躍する株式会社みえほけん代表取締役・野田基紀氏(51)に聞いた。
「今回のシミュレーションは非常に興味深いものです。ローンなどが一切ない前提であっても、年金収入のほかに少なくとも約5000万円程度の老後資金が必要であるというものです。この金額は比較的現実的なデータであり、しかも“絶望的な値”とも言えるかもしれません。もし、貯蓄が5000万に満たなければ、60歳で仕事を辞めることは現実的ではなく、65歳から年金を受け取りつつ、体が元気な限り働いて生計を立てることが賢明だと考えます」
“最低でも5000万円”は決して大げさではなかった。60歳でリタイア&悠々自適の老後生活へのハードルは、あまりにも…高い。