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エンターテインメントの力を信じたキング・オブ・ポップの想いが読み取れる映画「Michael/マイケル」

伊藤 さとり 伊藤 さとり
映画「Michael/マイケル」(R), TM & (C) 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
映画「Michael/マイケル」(R), TM & (C) 2026 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 マイケル・ジャクソンと仕事をしたことがある。

 それは映画イベントでも音楽イベントでもないマイケル自身のある企画に関する記者クローズドの会見だった。そこはテーマパークを日本で作ろうとしたマイケル・ジャクソンの意志を記者に伝える場だった。本人との打ち合わせはゼロ。部屋から会場の席に着くまで、足を止めさせないという謎のルールで、緊張しながらマイクに口を近づけ、前説をしていた日のことを今もよく覚えている。司会をしているのに壇上のマイケルとは話していないような不思議な感覚に捉われる会見だった。

 もちろん、1971年生まれの私にはマイケル・ジャクソンの存在は大きい。物心ついた時には、既にジャクソン5の「ABC」や「アイル・ビー・ゼア」やマイケル・ジャクソンのソロ曲も流れ、彼の曲はレコード店の分かりやすい位置にあった。特に一部の世代は、マイケル・ジャクソン=ミュージック・ビデオの印象が強いのかもしれない。東京生まれの私からの話になるが、80年代にテレビ神奈川でスタートした「ミュージック・トマト」という洋楽のミュージック・ビデオを放送する番組があり、マイケル・ジャクソンは頭がひとつ抜けているほど革新的だったからだ。

  そのミュージック・ビデオの製作過程が、本作「Michael/マイケル」にも映し出されている。母親とよく映画を見ていた少年は映画を愛し、争いを好まず平和を願い、音楽の力で世界を変えようとしていたから、ミュージック・ビデオでのキャスティングにもこだわり、歌から物語を思いつき、ミュージック・ビデオをひとつの短編映画にしてしまった。その象徴と言えるのが「スリラー」だ。監督は「狼男アメリカン」のジョン・ランディス。本作は1982年にアカデミー賞に新設されたメイクアップ賞を受賞したホラー映画で、この時の特殊メイクを担当したリック・ベイカーが、「スリラー」も担当している。劇中、ダンスの素晴らしさをスクリーンで見せたいと思ったマイケルが、カメラアングルの指示変更をするシーンもあるのだが、これは映画を見尽くしている者にしか想像できない構図だとほくそ笑んだ。だから歴史に残るミュージック・ビデオが完成したのだと思い、納得しかなかった。

  個人的にはマイケル・ジャクソンという人物は、ミッキーマウスを愛し、愛猿バブルスを筆頭に動物を愛し、高音で激しいステップを踏みながら魂で歌い上げる唯一無二のパフォーマーでありアーティストという印象だが、そんな一般的な認識はさらりと描き、名曲のパフォーマンスをしっかり入れ込みながら、黒人アーティストとして道を切り開く苦労や父との確執を中心に添え、物語は綴られていく。だからか観客であるこちらは身体が勝手にリズムを刻みながら、力で支配された家の中で父のコントロールから逃れようともがくマイケルの姿を、固唾を呑んで見守る状態になるのだ。まさに天性の才能を持った子供のいばらの人生は映画化するに相応しいものだった。

 もちろん「THIS IS IT」のようなライブドキュメンタリー映画は時代を超えて愛されるものだが、本作もフィクションとしてかなりのクオリティを持った作品になっているのだ。何より「ジャクソン5」時代を演じた天才キッズダンサー、ジュリアーノ・クルー・ヴァルディのキレのあるダンス表現と、マイケルの甥であるジャファー・ジャクソンが次第にマイケル自身に見えてくるのが素晴らしい。それはメイクアップ・デザインの力や、演技コーチ、そしてマイケルのツアーに参加していた振付師による訓練の結果もあるだろうが、幼い頃から叔父マイケルの存在を身近に感じていた本人だから表現出来たことなのではないだろうか。そこには「ボヘミアン・ラプソディ」のプロデューサー、グレアム・キングが、前作でクイーンのパフォーマンスとフレディ・マーキュリーの半生を映画的表現で成功させた実績と経験もあるだろう。それにしてもジャファーを筆頭に、キャスト全員が凄まじく歌も演技も上手い。まさにソウルフルな映画だった。

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