仕事帰りのAさんは、コンビニでコーヒーのR(レギュラー)サイズを注文したものの、疲れで頭がぼーっとしていたのか、コーヒーマシンを操作する際に誤ってL(ラージ)サイズのボタンを押してしまった。
カップに溢れんばかりに注がれるコーヒーを見て「しまった!」と思ったが、レジは混んでおり店員を呼び止められそうにない。その時Aさんは「数十円の差だし、このまま黙って帰ってもわからないだろう…」という誘惑に一瞬駆られてしまう。
では、この「数十円の差」を黙認して持ち帰る行為は、法的にどのようなリスクを孕んでいるだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー注文と違うボタンを押してしまい、そのまま持ち帰ると何らかの罪になりますか?
「窃盗罪」に問われる可能性があります。店側はあくまで「購入したサイズ(R)」を注ぐことのみを許諾しています。それ以上の量(L)を勝手に注いで持ち去る行為は、店側の意思に反して財物を占有することになるため、窃盗罪に該当します。
「騙して受け取った」わけではなく、セルフサービスで「勝手に取った」形になるため、実務上は詐欺罪よりも窃盗罪として扱われるケースが多いのが特徴です。
ー最初は「うっかり」でも、途中で気づいてそのまま店を出ることは問題ですか?
犯罪が成立するには「故意(わざと)」が必要ですが、ボタンを押した瞬間に間違いに気づき、そのまま「自分のものにしよう」と思って店を出た時点で、法的には「不法領得の意思(他人の物を自分のものとして利用・処分しようとする意思)」があったとみなされます。
「後で気づいたから仕方ない」という言い訳は、店を出てしまった後では客観的に通用しにくくなります。
ー店側はセンサーやカメラで、こうした「押し間違い」を把握しているものですか?
防犯カメラでの目視確認はもちろん、レジの販売データとマシンの抽出データを照合すれば、いつ、どのマシンで「売れていないはずのLサイズ」が抽出されたかは一目瞭然です。
特に、同じ時間帯に繰り返し行われているような場合は、店側がマークしており、ある日突然、警察を呼ばれて現行犯逮捕される…というケースも実際に起きています。
ー実際に、数十円の差額で人生が変わってしまった事例はあるのでしょうか?
過去には、コンビニコーヒーのサイズを偽って注いだとして書類送検され、それが原因で懲戒免職処分になった事例も報告されています。
たとえ数百円以下の被害であっても、悪質とみなされれば「微罪処分」で済まず、前科がつく可能性もあります。失う社会的信用や職の対価としては、あまりにも高すぎると言わざるを得ません。
一番の罪は「間違いを隠してそのまま逃げること」です。自分のキャリアや人生を守るためにも、誠実な行動を心がけてください。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。