先日急逝した父親の遺品整理をしていたあるAさん。父は最期まで現役でバリバリ働いており、身の回りのことはすべて最新のスマホで完結させていた。そんな父は預金管理もスマホでおこなっており、預金通帳がどれだけ探しても見当たらない。唯一の手がかりである父のスマホにはロックがかかっており、中が見れない状態だ。
困ったAさんはスマホショップの窓口で相談してみるが、ロックは開けられないと断られてしまう。このような場合、スマホのロックは永久に開けられないのだろうか。そして預金の対応はどうしたらいいのだろうか。デジタル遺品と相続のトラブルについて、北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞いた。
ー「スマホが開かない」時、遺族であってもロック解除の対応をしてくれないのでしょうか?
メーカーがパスコード(画面ロック)を解除してくれることは難しいようです。これはプライバシー保護とセキュリティの観点から徹底されており、たとえ正当な相続人であっても例外は認められないのが共通ルールのようです。
ただし、ロックの解除そのものは難しくとも、一定の条件下で故人アカウントとそのデータにアクセスすることは可能です。
たとえばAppleの場合、事前に「故人アカウント管理連絡先」を設定していれば、死後にAppleアカウントのデータの一部にアクセスできる仕組みがあります。ただ、これも設定していなければ利用できません。
ースマホが開かず、通帳もない状態で「銀行口座」を特定する術はありますか?
まずは自宅に届いている郵便物を徹底的に探してください。
クレジットカードの明細、住宅ローンの案内、水道光熱費の請求書、金融機関のダイレクトメールなどがハガキで届いていることが多々あります。これらを手がかりに取引口座を割り出していきます。
そのほか、補助的な手段にはなりますが、預金保険機構に対して「相続時預貯金照会」を行うことができます。一定の手数料は必要ですが、各金融機関との取引有無を預金保険機構が「相続時照会結果通知書」にまとめて報告してくれるものです。たいへん便利そうな制度ですが、被相続人が生前にマイナンバーと紐づけた預貯金口座しか照会できないため「補助的」と記すゆえんです。
ー口座は分かっても「ログインパスワード」が分かりません。銀行は対応してくれますか?
銀行側は対応可能です。誤解されがちですが、相続手続きにおいて遺族が故人のログインパスワードや暗証番号を知っている必要はありません。むしろ、勝手にログインして操作することはトラブルの元です。
銀行に対して「名義人が死亡したため相続手続きをしたい」と申し出れば、その口座における以降の取引を停止し(一部例外あり)、戸籍謄本や印鑑証明書といった必要書類を提出することで、残高証明書の発行や解約払戻金の受け取りを行うことができます。
ー自分が「残される側」に迷惑をかけないために、今しておくべきことは?
とりいそぎ、利用している金融機関名や支店名だけでも「紙」にメモして、エンディングノートや重要書類と一緒に保管しておいてください。暗証番号やパスワードまで書く必要はありません。金融機関名と支店名さえ分かれば、遺族は法的な手続きによって自力で解約や名義変更に辿り着くことができます。遺言で備えられればそれにこしたことはありません。
次に、スマホ自体の機能として、iPhoneなどの「故人アカウント管理連絡先」を事前に登録しておくことも大切です。これにより、万が一の際に信頼できる家族が写真や連絡先などのデータにアクセスできるようになります。
◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士
長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1,000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3,000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。