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3月3日は47年前の伝説「ベルばら」実写映画の公開日 奇跡的なベルサイユ宮殿での撮影、関係者が語る舞台裏

北村 泰介 北村 泰介
実写映画「ベルサイユのばら」の主演女優カトリオーナ・マッコールがジャケットに登場した“ベルばらレコード"の数々※山田宏一・濱田髙志著「シネマ・アンシャンテ」(立東舎)より
実写映画「ベルサイユのばら」の主演女優カトリオーナ・マッコールがジャケットに登場した“ベルばらレコード"の数々※山田宏一・濱田髙志著「シネマ・アンシャンテ」(立東舎)より

 1970年代に「ベルばら」ブームという社会現象があった。「ベルばら」とは、漫画家・池田理代子氏の原作漫画(72~73年連載)で、宝塚歌劇団が74年に初舞台化して大ヒットした「ベルサイユのばら」の略称だが、アニメだけでなく、79年には実写版映画が公開されていた。その公開日だった「3月3日」に合わせ、当時を知る関係者に話を聞いた。

 作品の舞台は18世紀のパリ。貴族の令嬢でありながら軍人として育てられた“男装の麗人”オスカル、兄弟のように育った従者・アンドレ、王妃マリー・アントワネットの3人が主要キャストとなる。セリフは英語で,日本語字幕は原作者の池田氏が担当。主役のオスカルを演じたカトリオーナ・マッコールはロンドン出身の英国人だった。

 製作会社のスタッフだった宗像(むなかた)和男氏は当サイトの取材に「世界的なヒットを狙っていましたので、英語でやるのが一番という判断でした」と説明した。

 宗像氏は同作の山本又一朗プロデューサーと米英仏で約1年間にわたって生活を共にし、日本の漫画を海外で映画化するという構想の実現に向けて奔走した。ともに1947年生まれの団塊世代。宗像氏は山本氏を「戦友」と呼ぶ。ちなみに、山本氏は79年に「ベルばら」だけでなく、大ヒットしたアニメ映画「がんばれ!!タブチくん!!」、今年1月仁死去した長谷川和彦監督の「太陽を盗んだ男」も手がけており、敏腕プロデューサーへの大きな一歩を踏み出した時期だった。

 当初は米ハリウッドの監督数人と交渉。宗像氏は「英訳した原作本など段ボール7~8個分の資料を見てもらったが、公開前年の時点で『短期間ではできない』と全員に断られました」と明かす。そこでフランス人のジャック・ドゥミ監督に白羽の矢が立った。作曲家のミシェル・ルグランと組み、カトリーヌ・ドヌーヴ主演のミュージカル映画「シェルブールの雨傘」で64年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝いた名匠だ。

 公開1年前の78年3月、山本氏と宗像氏はロサンゼルスからパリに飛んでドゥミ監督と交渉。受諾に至った。ドゥミのパートナーであるアニエス・ヴァルダ監督が制作管理責任者を務めた。そして“奇跡"が起きた。宗像氏は「ラッキーだったのはベルサイユ宮殿での撮影がこの2人のおかげで即決したこと。1930年代以来、監督官庁は一切、宮殿を貸さなかったらしいのですが、その時の担当者がジャックとアニエスの大ファンだったことから一発でOKが出たのです」と振り返った。

 宮殿での撮影は8週間。宗像氏は「その間、雨は一切降らなかった。毎週金曜日には夕方から夜にかけ、スタッフとキャスト150~200人くらいでパーティーを開き、大ヒットしていた映画『サタデー・ナイト・フィーバー』の音楽で全員が踊ったものです」と懐かしむ。

 映画は完成。宗像氏は「“合作”ではなく、日本映画です。制作費は3社(資生堂、日本テレビ、東宝)各2億5千万円の計7億5千万円で、配給収入は9億3000万円。アニエスが制作費を予算内に収め、余った制作資金を出資者に返して誰にも損をさせなかった」と補足した。

 キャンペーンで来日したマッコールも脚光を浴びた。公開当時24歳。映画とタイアップした資生堂のCMに出演し、競合社は同じ英国人女優のオリビア・ハッセーを「きみは薔薇より美しい。」のキャッチコピーで起用して「バラ戦争」と呼ばれた。だが、フランスでは公開されなかった。あくまで、同国で撮影された“日本映画”だった。

 もうひとつの注目は巨匠ルグランが音楽を担当したこと。長年交流したアンソロジスト(編集者)の濱田髙志氏は映画評論家・山田宏一氏との共著「シネマ・アンシャンテ」(立東舎)で同作に触れた。濱田氏は当サイトに「ミシェルにとって、前年公開された手塚治虫原作で市川崑監督の実写映画『火の鳥』に続く、2作目の日本映画でした。その後、フランシス・レイが郷ひろみ主演の『聖女伝説』(85年)、モーリス・ジャールが『首都消失』(87年、渡瀬恒彦主演)の音楽を担当しましたが、その先がけとなったという意味で『ベルばら』は重要な作品です」と解説した。

 英題は「LADY OSCAR」。原作と別物だと考えれば新たな発見がある。宗像氏は「原作のファンにとってオスカルは宝塚の男役みたいなイメージだと思いますが、映画版は女性的すぎると感じた方もおられたと思います」と指摘。映画では男装のオスカルが部屋で1人、鏡の前で乳房を出して自分の「性」と向き合う描写もあった。現在の視点なら「ジェンダー」の問題に迫った作品ともいえる。

 3月6日に79歳の誕生日を迎える宗像氏。「当時の僕たちは30歳くらいで、海外で映画を作ったことが一度もなかったのに、準備に2年かかるところを1年でやりました」と感慨に浸った。若き日本人が情熱を捧げた、原作とはまた別の「ベルばら映画」が47年前の「桃の節句」に誕生していた。

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