ある男性は、今年も始まった花粉症による鼻水の症状に悩まされていた。仕事が忙しく通院する余裕がなかったため、実家の薬箱を探してみることに。そこで見つけたのは、父親が昨年処方してもらった花粉症薬だ。
彼は「同じ成分のはずだし大丈夫だろう」とこれを一錠を服用して出勤した。これで花粉症の鼻水は落ち着くと思っていた男性だったが、しばらくして強烈な眠気に襲われ、逆に仕事に支障が出てしまうのだった。
散々な目に遭った彼は、このことを同僚に話すと「他人の処方された薬って飲んだら罪になるんじゃなかった?」と険しい表情に。同僚の言葉に不安を感じた男性は、1日中仕事に集中することができなかった。
この男性のように、家族や同僚の処方薬の服薬にはどのような法的リスクがあるのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー処方薬を家族に譲る、あるいは受け取って飲む行為は、法的に違反になりますか?
処方薬(医療用医薬品)を無資格者が他人に譲渡する行為は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」に抵触する恐れがあります。
本来、処方薬は医師が診察した特定の患者に対してのみ出されるものであり、それを他人に売ったり、たとえ無償であっても譲ったりすることは、許可のない「医薬品の販売・授与」を禁じる規定(薬機法24条1項)に抵触する可能性があるのです。
家族間であっても例外ではありません。また、処方薬は「麻薬及び向精神薬取締法」などで規制される成分を含むこともあり、その場合はさらに重い罪に問われるリスクさえあります。
ーもし他人の薬を飲んで運転し、事故を起こした場合、過失の重さはどう変わりますか?
重くなる可能性があります。自動車の運転において、運転者は「薬物の影響などにより、正常な運転ができない恐れがある状態」で運転してはならないと定められています。
医師の診断を受けず、副作用(眠気など)を把握していない他人の薬を自己判断で服用し、事故を起こした場合、「不適切な自己判断による危険な運転」とみなされ、過失致死傷罪や、場合によっては「危険運転致死傷罪」などの厳しい刑事罰の対象になり得ます。
また、民事上の賠償責任においても、「医師から自分に処方されたわけでもない薬を勝手に飲んだ」という点は重大な落ち度とされ、過失相殺などで不利に働くことは免れません。
ー会社で「この薬、よく効くよ」と余った処方薬を同僚に分ける行為の危険性は?
法的リスクはもちろんですが、健康被害の観点から危険です。
処方薬は、その人の体重やアレルギー、他に飲んでいる薬との飲み合わせなどを考慮して医師が処方したものです。同僚がその薬でアナフィラキシーショック(激しいアレルギー反応)を起こしたり、重篤な副作用が出たりした場合、良かれと思って譲った側が「過失致死傷罪」に問われる可能性があります。
ー時間が取れない場合、どう対策すべきでしょうか?
どうしても病院に行けない場合は、ドラッグストアで購入できる一般用医薬品(OTC医薬品)を活用してください。これらは誰でも服用できるよう安全性が設計されており、薬剤師や登録販売者に相談もできます。最近ではオンライン診療を導入している病院も増えています。
「一錠くらい」という安易な譲り合いが、取り返しのつかない事故や法的トラブルを招くことを、肝に銘じておくべきです。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。