仕事帰り、疲れた体を引きずりながらスーパーへ立ち寄る。有人レジの行列を横目にセルフレジで会計を済ませ、スムーズに帰路につく。この瞬間は、忙しい現代人にとってささやかな安息の時間かもしれない。しかしその利便性の裏には、思いもよらぬ「落とし穴」がある。
Aさんは帰宅後、エコバッグの中からレシートにない牛乳パックを見つけ、「しまった、カゴの死角にあってスキャンし忘れた…」と思い、血の気が引いていった。きっとスーパーの防犯カメラには、自分が商品をスキャンせずにバッグに入れる姿が映っているだろう。
このような場合、「故意ではなかった」という言い分は客観的な映像の前でどれだけの効力を持つのだろうか。セルフレジでのトラブルについて、まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ーセルフレジでの通し忘れは、刑法上の「窃盗罪(万引き)」にあたりますか
単なる「うっかり(過失)」であれば、窃盗罪は成立しません。
刑法における窃盗罪が成立するためには、「故意(わざと盗む意思)」が必要です。日本の法律では、不注意による過失の窃盗は処罰の対象となっていません。
したがって、本当に気づかなかっただけであれば犯罪にはあたりませんが、それはあくまで「真実がそうであれば」という前提の話であり、店側や警察の判断は別問題となります。
ー犯罪成立の要件である「故意」の有無は、どのように判断されますか
本人がいくら「わざとじゃなかった」と主張しても、それだけでは判断されません。客観的な「状況証拠」から総合的に判断されるのが一般的です。
第一に「商品の点数と比率」です。大量に購入して一つだけ漏れたのか、高額商品ばかり漏れているのかが見られます。第二に「当時の行動」です。防犯カメラの映像で、周囲を警戒したり商品を隠したりする不審な挙動がないかが確認されます。
そして第三に「所持金」です。その商品を支払う十分な金銭を持っていたかどうかも、故意を否定する一つの材料となります。
ー店を出た後に気づいた場合、どのような行動を取るのが正解ですか
気づいた時点で速やかに店へ連絡、または再訪し、代金を支払うのが最もリスクの低い行動です。
「怖いから」といって商品を捨てたり、そのまま消費したりすると、後から発覚した場合に「自分のものにする意思(不法領得の意思)」があったとみなされ、窃盗の疑いが強まります。
自ら申告して支払いに来る客を警察に突き出すことは通常考えにくく、その行動自体が「盗むつもりがなかったこと」の強力な証明になります。
ー万引きを疑われた場合、どうやって身の潔白を証明すればよいですか
まずは絶対に逃げたり、暴れたりしないことです。抵抗すると、事後強盗など別の重い罪に問われるリスクが生じます。
冷静に「精算漏れ」の事実は認めて謝罪した上で、財布の中身を見せて支払能力があることを示し、隠す意図がなかったことを主張しましょう。
その場で故意の不在を完全に証明するのは難しいですが、誠実な態度で事情を説明することが、疑いを晴らすための第一歩となります。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。