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「君の力が必要だ」を信じて退職→転職予定も“採用白紙”で無職… 口約束に法的効力は【弁護士が解説】

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40代、50代といえば、キャリアの集大成を迎える時期だ。そんな折、かつて信頼関係を築いた元上司から「君の力が必要だ」と熱烈に口説かれれば、心が動く人もいるだろう。

中堅企業で実績を上げていた男性もその1人だった。取引先の部長となった元上司の言葉を信じ、正式なオファーレターを待たずに退職届を提出した。しかしその結末は「役員会で否決された」というまさかの採用白紙だった。

積み上げたキャリアを捨て、次の収入も保証されないまま放り出されたこの男性は、現実を受け入れるしかないのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。

ー口頭での誘いは、法的に採用内定や労働契約の予約として成立する可能性がありますか

可能性はありますが、ハードルは高いです。法的には、口頭であっても契約は成立しますが、単に「うちに来ないか」と言われただけでは、契約の申し込みとしては不十分と見なされることが多いです。

採用内定(労働契約)が成立したと認められるには、具体的な労働条件(給与、役職、入社日など)について合意がなされている必要があります。単なる勧誘や交渉の段階だったのか、確定的な採用の意思表示だったのかが争点となるでしょう。

ー仮に契約が成立していたと認められた場合、一方的な採用の反故は「不当解雇」にあたりますか?

もし具体的な条件合意があり「採用内定」の状態にあったと認定されれば、それは「始期付解約権留保付労働契約」という契約が成立していると考えられます。この場合、会社側が一方的に内定を取り消すことは、客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる理由がない限り無効です。

つまり、すでに社員である人を解雇するのと同等の厳しい制約がかかるため、不当解雇として争うことができます。

ー契約成立が認められない場合でも、損害賠償を請求することは可能ですか?

たとえ労働契約そのものが成立していなくても、元上司が採用を確実であるかのように誤信させ、退職という重大な決断をさせた場合、信義則上の義務違反が問われます。

「君なら絶対に通る」「役員会は形式的なものだ」といった言動で強い期待を抱かせたのであれば、その信頼を裏切ったことによる損害賠償請求が認められる可能性は十分にあります。

ー損害賠償を請求できる場合、どのような損害が認められる可能性がありますか?

主に、退職しなければ得られていたはずの給与(逸失利益)や、精神的苦痛に対する慰謝料などが考えられます。ただし、将来にわたって得られたはずの給与全額が認められるわけではありません。再就職活動に必要と思われる期間(例えば3ヶ月〜6ヶ月分程度)の賃金相当額や、退職によって失った地位に対する慰謝料などが一般的です。

一方で、これらの訴えが認められるには、証拠の保全が重要です。具体的には、元上司とのメールやLINEの履歴、通話録音などが強力な証拠となります。「給与は〇〇万円で」「いつから来てほしい」といった具体的な条件がやり取りされていれば有利です。また、もしそのような記録がない場合でも、当時の会話内容を詳細に記した日記やメモ、勧誘の事実を知る第三者の証言なども証拠になり得ます。

●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 

大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。

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