交際相手から贈られる高価な品々は、愛情の証として二人の関係を彩る輝かしい記念となる。しかしその輝きが、時として思わぬ税負担という影を落とすことがあるのをご存じであろうか。
ある女性Aさんは交際していた男性から、誕生日や記念日はもちろん、何でもない日にも高級ブランドのバッグや宝飾品、海外旅行などをプレゼントされていた。その総額は、昨年1年間だけで300万円にも上るほどだ。しかし関係は長く続かず、今年に入って破局。そんな中、深い喪失感を抱えるAさんに追い打ちをかけるように、友人が「それ贈与税がかかるんじゃないの?」と疑問を投げかけられるのだった。
恋人同士のプレゼントであっても税金がかかる場合があるのだろうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
ー恋人同士のプレゼントは贈与税の対象になるのでしょうか
対象となります。贈与税とは、個人から財産を無償でもらったときにかかる税金です。法律の条文には、「誰から」もらったかという関係性を限定する記述はありません。つまり、親子間であろうと友人同士であろうと、もちろん恋人同士であろうと、財産の無償譲渡という実態があれば、贈与とみなされます。
ー贈与税がかかるかどうかの判断基準はどのようなものですか
誕生日やクリスマスに贈られるような、社会通念上相当と認められる範囲のプレゼントであれば、通常は課税対象として問題になることはないと考えます。しかし年間総額300万円という額は、この「社会通念上相当」という範囲を明らかに超えていると判断される可能性が高いでしょう。
贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から、基礎控除額である110万円を差し引いた残りの金額に対して課税されます。Aさんのケースでいえば、彼女が1年間で受け取ったプレゼントの総額300万円から基礎控除の110万円を差し引いた190万円が贈与税の課税対象となります。
ー「生活費の援助」という主張は通用しますか
贈与税には「扶養義務者から生活費又は教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」は非課税とする、という規定が存在します。ただしこの場合は恋人からのプレゼントなので、扶養義務者には該当しません。また内容的にも生活費や教育費とは認められづらいでしょう。
ー納税義務を負うのはどちらですか
贈与税の対象となった場合、その税金を納める義務があるのはプレゼントをあげた側(贈与者)ではなく、もらった側(受贈者)です。今回のケースで言えば、納税義務を負うのはプレゼントをもらった女性側です。高額なプレゼントを受け取るという行為は、喜びと同時に税務上のリスクを伴う点を忘れないようにしましょう。
後日税務調査などで未納が発覚した場合には、本来納めるべき税金に加えて延滞税や無申告加算税といった重いペナルティが課されることになります。高額なプレゼントをもらった際には、専門家に相談するなどしてルールに沿った対応が求められます。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。