日本料理と一言で言っても、長い歴史の中で使う食材も調理法も変化しつづけている。「弁松の弁当」や「駒形どぜうのどぜう鍋」のように江戸の味を謳う食べ物はあるが、時代が遡れば遡るほどその味を見つけることはなかなか難しい。
実は奈良パークホテルでは江戸時代よりはるか昔、奈良時代の宮廷料理を楽しめる「天平の宴」という食事プランがある。要予約で2名から利用可能。この宴を楽しんできたのが、漫画家の亀さん(@rekisikei)だ。
亀さんが描いた「天平の宴」レポマンガは駅から奈良パークホテルに向かうところからはじまる。そして、到着した会場は、真っ暗で菜種油の灯りがぼんやりと照らすだけ。だが、それは当時を思わせる雰囲気づくりであって、すぐに電気によって部屋は明るくなったのだという。
いざ、料理が並ぶ。お品書きだけでは、なにがなんだかわからないが、スタッフによる説明があるので安心だ。醍醐味の由来である「蘇」を食べて「チベットで食べた乳製品に近い味」と感じたり、しびんみたいな器から杯にどぶろくを注いで飲む亀さん。
この時代の酒器である平瓶銚子がしびんに見えてしまうというのは、実は言われがちだ。
鹿の干し肉や魚、山菜と貝などを食していく亀さん。スタッフから「当時は料理で調味料を使わず、塩や酢をつけて食べていた」との歴史知識の解説もあったそうだ。食事をすればするほど、奈良時代の理解が深まっていく仕組みになっているようだ。
なお、防腐処理で塩で締めているので、それによる味付けはあるという。銀杏やきのこと一緒に食べる猪肉の大葉包みは舌に合ったようだ。
唐菓子と呼ばれる甘くないクッキーや干し柿や枝豆をデザートとしていただく亀さん。「枝豆も昔はデザートだったんですよ」というスタッフの解説は驚きだ。豆もスイーツ。
また、スタッフから「どうして天平の宴を予約したのか」と聞かれた亀さんが「中国の唐代の食事に興味があり、奈良時代の食は近いのでは、と思ってきた」と答え、最後は奈良パークホテルに行くように促したところでレポマンガは終わった。
なんと興味深い体験なのだろう。もっと深掘りしたい。ということで、「唐代の食事を食べた気分にはなれたのか」「一番のお気に入りはどの品目だったのか」など、亀さんにお話を聞いた。
ーー中国の唐代の食事を食べたいとの目的でしたが、その欲求は満たされましたか。
亀: もちろん食材が違うので同じではありませんが、六世紀に中国の本草書が日本に入ってきています。蘇の作り方もその本に描かれているようで、文化の繋がりを感じることができました。
ーー実際に「天平の宴」を食べてみて、気に入った品目、驚いた品目などはありましたか。
亀: 当時の超高級品「蘇」や古代米は美味しかったですね。あと蒸留酒の技術が未発達で、梅酒はなかったらしいと聞きました。
知智(ちち)や鹿尾藻(ひずきも)という言葉も初めて知りました。それが何かは……、ぜひ行ってみてください。
ーー「天平の宴」を食べてみての味の総評を教えてください。
亀: 味も最高でしたよ! 料理長が美味しさと古代ロマンを並立させるため、苦労なさったとのことです。
ーーこれまでに食べてきたもので変わったものはありますか。それはどんなものですか。
亀: トナカイやダチョウの肉を食べたことはあります。アラブに麦を焦がして食べる慣習があると知り、作って食べてみました。でも日本でも、はったい粉として売ってるぐらいポピュラーな食べ物だったんですよね。そういう体験も楽しいです。
ーー投稿の反響へのご感想をお聞かせください。
亀: 最高の体験だったので、天平の宴を知らない人にも届けばいいなと思います。
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語り部の説明を聞きながら、1300年以上前の美食に舌鼓を打つ。これは人生で一度は体験しておきたい食体験ではなかろうか。関西を訪れる機会があれば、ぜひとも予定に組み込みたい。
亀さん関連情報
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「天平の宴」公式情報
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