今や当たり前のように使用する人が増えたQRコード決済。財布を持たずともスマートフォン1つで支払いが完了する手軽さは、1度慣れると手放せない利便性だ。しかし、この手軽さの裏には、思わぬ「罠」が潜んでいることも事実である。
例えば、レジ横のQRコードを読み取って金額を入力し、支払いを完了した商品があったとする。会計後に決済履歴を確認すると、本来支払うべき金額よりも一桁少ない金額で決済してしまった場合、法的に何か問題が生じるのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー意図せず少ない金額で決済してしまった場合、法的に罪に問われるのでしょうか?
意図せずに、過失によって少ない金額で決済してしまった場合、直ちに刑事上の罪に問われる可能性は低いでしょう。このケースでは、客側に店を積極的に騙そうという意思がなかった点と、店員にも確認ミスという過失があるため、直ちに何かしらの罪が成立するとは考えにくいです。
ただし「客が明らかに金額が間違っていることに気づきながら、それを店員に告げずに黙って決済し、不当な利益を得た」という場合であれば、「不作為による詐欺」が成立する可能性も否定できません。
ー金額の間違いに後で気づいた場合、店側に報告すべきでしょうか?
この場合、商品やサービスの対価として本来支払うべき金額の一部が未払いになっている状態、つまり債務不履行(民法415条)にあたると考えられます。お客様とお店の間には売買契約(またはサービス提供契約)が成立しており、お客様は契約に基づいた正しい金額を支払う義務があります。
したがって、お店側は、お客様に対して不足している金額(未払い残代金)の支払いを請求する権利があります。お客様は、気づいた時点で速やかにお店に申し出て、不足分を支払うのが適切です。
ー連絡せずに放置した場合どうなりますか
QRコード決済は、利用日時や金額、利用者情報などがデータとして記録されています。そのため、お店側が後日、売上と実際の入金を確認する中で、金額の不足に気づく可能性があります。
お店側が利用者を特定できれば、未払い代金の支払いを求める連絡が来ることも十分に考えられます。それでも支払いに応じない場合は、少額訴訟などの法的手段を取られる可能性も出てきます。その際には、本来支払うべきだった金額に加えて、遅延損害金や訴訟にかかる費用なども請求されるリスクが生じます。正直に申し出て支払う方が、結果的に負担は少なくて済むでしょう。
ーどのように店に連絡し、対応するのが最も適切でしょうか?
まず、いつ、どの店で、おおよそ何時頃に利用したのか、可能であれば決済アプリの履歴や、もしあれば電子レシートなどを確認し、状況を正確に把握しましょう。その後、店舗に連絡を入れて正直に状況を報告します。
その後、店側の指示に従い、差額を支払いましょう。店側にも落ち度があったとはいえ、連絡する際には丁寧な言葉遣いを心がけ、店側に迷惑をかけたことに対して一言謝罪の言葉を添えるのが望ましいです。
誠実に対応すれば、逆に店側から感謝され、良好な関係を築くきっかけとなるかもしれません。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。