「火サス」こと「火曜サスペンス劇場」。その象徴と言えるのが「崖」と竹内まりやの主題歌「シングル・アゲイン」。ここをしっかりと掴み、冒頭から美しいほどの断崖絶壁登場、エンドロールはあの悲壮感漂うメロディが流れれば、思わず一緒に歌ってしまう楽しさよ。そうだ、2時間サスペンスって楽しかったのだ。それを思い出させてくれる映画「テレビショッピングの女王 青池春香の事件チャンネル」(公開中)。そこにはお決まりのわざとらしいショットの連続で、先に怪しい人物やアイテムを紹介してくれる演出も健在だった。ただ、なぜ映画にしたのか、それを紐解いていこうではないか。
映画の主演は、サスペンスドラマの顔となった名取裕子。彼女がテレビショッピングの女王となり、ショッピングチャンネルでよく見る豪華客船クルーズ旅行やら、キラキラ輝くブローチなんかを宣伝するだけでレトロな香りが漂ってきて懐かしさで胸いっぱいになる。そこに大阪のおばちゃん臭ムンムンの友近が関西の実践販売の女王というアナログな販売方法で対抗って、もはや新しいサスペンスコントか。と思ったら二人でものまねコントのようなシーンまで映し出されるんだから驚かないわけがない。それも名取裕子の主演映画代表作となる「吉原炎上」と、あの歴史的名セリフを生み出した「鬼龍院花子の生涯」のパロディまで挿入されるのだから、完全にコメディなのだと吹き出した。他にも友近の歌手活動を意識したパロディまで登場する。それでもやり過ぎ感が無いところが、この映画があくまでも「サスペンス愛」で進行されていくことをスタッフ、監督も心に決めているからだろう。
他にもベタな演出は続き、風間トオル演じる刑事が仕事の合間に口にするものにあんぱんと牛乳が用意されていたり、名取裕子と友近がいつの間にかタッグを組んで勝手に探偵のように調べ始めたりとツッコミどころ満載なのだ。それと忘れてはならないのは、謎めいたシーンの時に流れるいかにも怪しいスコアだろう。観客が謎解きをしやすいように事件解決の鍵となるシーンを目と耳でキャッチ出来るようにすることで、老若男女が主人公と一緒に推理を楽しめる作品になっていた。思えば子供達にも大人気のアニメ「名探偵コナン」が愛されている理由は、なぞなぞの延長と言える絵を見て怪しいものを探るゲーム的物語というのも理由のひとつではなかろうか。
そもそも「サスペンスドラマ」は、家族団欒の場であるお茶の間に適したテレビドラマとして生まれたはずなのに、今やその姿は地上波にはない。その理由はインターネットや配信が台頭したことでのスポンサー離れもあるのかもしれない。ならば映画館でという発想も斬新だったが、考えてみると納得は出来る。制作はドラマも映画も手がけるホリプロだからだ。そして大ヒットを記録した「侍タイムスリッパー」が、地上波における時代劇激減を嘆いた映画であるならば、本作は2時間サスペンスの灯火を消さない映画とも捉えられる。確かに映画館は、家族で出かけられる娯楽の場とも言える。となれば本作は、祖父母、孫での外出のきっかけを与え、交流を促す新しい映画のスタイルなのかもしれない。