新年度を迎え、進学や就職を機に一人暮らしを始める子を持つ親御さんは多い。遠く離れて暮らす子の生活を案じ、経済的な支援として「仕送り」を考えている親もいるだろう。ただ、この「仕送り」も気をつけなければ「贈与」とみなされ、税金が課せられる場合がある。注意すべき点について、正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。
ー仕送りに贈与税が課せられますか?
親から子への仕送りは、原則として贈与税の課税対象とはなりません。相続税法第21条の3第1項第2号において、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」については贈与税を課さない、と定められているためです。
「扶養義務者」とは、民法上の扶養義務を負う者を指し、親子関係はこれに該当します。そして「生活費」とは、その人らしい通常の日常生活を営むために必要な費用を意味し、食費、家賃、光熱費、医療費などが含まれます。「教育費」は、学費、教材費、通学費など、教育を受ける上で必要な費用です。
子供が学業に専念している間や、社会人として自立するまでの間は、親がその生活や教育に必要な費用を仕送りすることは、法的に認められた扶養義務の履行であり、年間110万円の暦年贈与の基礎控除とは別枠で考えられます。
ー使い方によっては課税される場合もあるのでしょうか
「通常必要と認められるもの」という点が非常に重要です。仕送りの「使い方」や「渡し方」によっては、贈与税の課税対象と判断されるケースが存在します。
例えば学生である子に対して、毎月数百万円といった、社会通念上、生活費や学費として不相応に高額な仕送りがおこなわれた場合、その過大な部分は「通常必要と認められるもの」の範囲を超えていると判断されるでしょう。
また、生活費や学費の名目で仕送りをしたとしても、子がそのお金を実際には生活や学業に使わず、株式投資や不動産購入の頭金、あるいは高級腕時計やブランドバッグなどの贅沢品の購入に充てていた場合、その部分は贈与税の対象となり得ます。
将来分まで含めて一度に大きな金額を渡してしまう場合も、単純な金銭の贈与と見なされる可能性があるため注意が必要です。
「必要なものを、必要な時に、必要なだけ渡す」という都度払いの原則を基本とし、親子間でコミュニケーションを取りながら、資金の使途についてもある程度の共通認識を持っておくことが望ましいでしょう。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 税理士事務所に10年以上勤務したのち、令和5年1月に独立開業。「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに、社労士や司法書士など、さまざまなお金に関する分野の専門家とチームを組んで活動している。趣味は鉄道、手芸、弓道初段。