NHK大河ドラマ「べらぼう」第8回は「逆襲の『金々先生』」。安永4年(1775)、「文学史的に大きな意義をもつ」と評される書物が江戸の地本問屋・鱗形屋(孫兵衛)から刊行されます。それが『金々先生栄花夢』(以下『金々先生』と略記)という黄表紙(大人向けの絵入り小説。表紙が黄色であることから名付けられた)です。「金八先生」ではありません。作者は恋川春町。江戸時代中期の戯作者で、駿河国小島藩士でした。
『金々先生』は子供向けだった草双紙(絵入りの娯楽本)を「大人向けの読み物にした」として文学史に大きな意義を持つとされています。『金々先生』は鱗形屋から刊行されて「大ヒット」します。
同書の主人公は金村屋金兵衛。彼はその名前から「金々先生」と呼ばれることになるのですが、当初は「片田舎」に住む男でした。金兵衛は浮世の楽しみを極め尽くしたいと考えていましたが、何分、貧乏で思うようになりません。そこで彼は「繁華の都」(江戸)に出て、奉公して出世し「浮世の楽しみ」を極めようと思い立ちます。
江戸に出て来た金兵衛は「運の神」として名高い「目黒不動尊」に参詣。しかし夕方になってしまい、腹が空いてくる。名物の粟餅を食べたいと店に入った金兵衛ですが、出来上がりを待つうちに旅の疲れもあり、眠ってしまいます。すると、どこからともなく、手代・番頭を多く引き連れた裃姿の年配の男が金兵衛の前に登場。その男は神田の富商・和泉屋清三の「家来」でした。
清三は「老衰」し隠居したいと考えていたが、子供もなく、跡取りを探していました。長年、信仰している八幡大菩薩の告げにより、出世を望む金兵衛の存在を知った清三は、家来を金兵衛のもとに遣わしたのです。
金兵衛を養子とし自らの後継にしたいと願ったのです。不審がる金兵衛ではありましたが、立身したいとかねてより思っていたこともあり、両者は「親子」となります。しかし金兵衛は遊郭などで放蕩に耽り、とうとう清三から絶縁されてしまうのです。屋敷から追い出された金兵衛でしたが、実はこれまでの出来事は全て彼の夢。人間の栄華の儚さを悟った金兵衛は、生まれ故郷に帰ることになります。人生は栄枯盛衰が付きものなのです。