テレビアニメ「タッチ」の上杉達也役などで知られる声優の三ツ矢雄二は昨年で古希を迎え、70代で迎えた2025年の幕開けに「新たな挑戦」を掲げた。それは「ジャズと小説」。三ツ矢がよろず~ニュースの取材に対し、その思いを語った。
〝演劇の街〟として知られる東京・下北沢の小劇場。昨年末、三ツ矢は女性芸人・オオタスセリが主宰する舞台「スセリ☆台本劇場」に出演した。電車内での女性に扮したコント的な朗読劇。フィナーレではキラキラの衣装で山本リンダの「どうにもとまらない」を振り付きで熱唱し、会場を盛り上げた。
「お客さんの前で何かを表現するのはすごく刺激になりますし、ジャズを歌っていくことへのエクササイズにもなる。10年以上のお付き合いのあるスセリさんの舞台には楽しく参加させてもらっているので、これからも続けていければ」。70歳とは思えない若々しさだった。
「何でも屋」と言う通り、声優だけでなく、脚本家、作詞家、エッセイストなど「書く仕事」でも活躍している。
「2・5次元ミュージカルの『テニスの王子様』の作詞に続いて、24年は『恋花幕明録』『マッシュル-MASHLE-』『新テニスの王子様』『黄金仮面』という4作品の作詞をして、声優より作詞の仕事の方が忙しかった。作詞のほかでは、エッセイと書き下ろしの詞を収録した『曲のない詞』という本を昨年出版し、戯曲もこれまで書いてきました。でも、小説は一度もなかった。いろんな人から『三ツ矢さん、小説は書かないの?』と聞かれて、そういえば書いたことないから、頑張って書いてみようかなと。一般的な小説はもちろん、BL(ボーイズラブ)も書いてみたいという意欲はあります」
指針となる小説があった。「僕は(19年に70歳で死去した作家)橋本治さんの『桃尻娘』(※78年の第1作刊行から90年代までシリーズ化)が大好きで、ああいうライトノベルを…、といっても橋本さんの本はすごく奥が深いんですけど、最初の取っかかりとして書いてみたいという気持ちになっていて、その中にBLみたいなものも含められたらと。『BLオーディオ文庫』というものを一番最初に始めたのは僕で、こんなにBLがブームになるとは思わなかったのですが、自分が始めたことですし、僕のアイデンティティにも関わることなので書いていけたら」。空いた時間にマイペースで執筆したいという。
一方、ジャズ・ボーカル開眼も近年のことだった。
「知人のミュージシャンに誘われてライブにゲストで出てジャズを2曲ほど歌ったことで目覚めました。大学生時代に部活(明治大学ジャズ研究会)で、学園祭とかダンスパーティーなどで歌っていました。当時のレパートリーは10曲程度しかなかったんですけど、今もすごく好きなジャズに、どこまで向き合えるかということで、やってみたいと。歌える環境作りが70歳からの目標の一つになりました」
体調を気にかける年代になってきた。当時67歳だった22年1月に出演したテレビ番組で、その前年に前立腺がんが判明したことを明かした。それから3年になる。
「組織検査をしていただいたら、転移のしない性質のガンだということで、MRIを年に1-2回撮って調べていますが、先生には『前立腺がんは進行が遅いから、それが悪化する前に三ツ矢さんの寿命が尽きます』と言われ、投薬も治療もなしで経過観察しています。発見時からそんなに悪くはなっていないということで、病気とは上手に付き合っていこうと。最近、亡くなった方の年齢を見ちゃいます。でも、まだまだ、頑張らなきゃと思っています」
自身の体と〝対話〟しながら、「ジャズと小説」という新たな挑戦が始まる。三ツ矢は「70歳以降の自分の目標というか、原動力というか、そんな形で実現していければいいなと思っています」と前を向いた。