1977年に放送されたテレビアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」が、約半世紀の時を経て、熱狂的な支持を受けているフィリピンで実写リメイクされた。CGをレベルアップさせた“超電磁編集版”映画「ボルテスV レガシー」が日本公開される18日を前に、マーク A. レイエス V監督を直撃。熱狂的なファンだった少年時代の思い出、そして今作に至る情熱を聞いた。
レイエス監督は1969年生まれの55歳。90年代からフィリピンのテレビ界を中心に、監督、脚本家、プロデューサーとして活躍。国内外で多くの受賞歴を誇る。代表作は2005年にスタートしたファンタジー・シリーズ「Encantadia(原題)」で、16年のリブート版も含めて500話近くが放送された。「ボルテスV レガシー」は1本の映画と90話のテレビシリーズが発表され、アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワードの国別カテゴリーで最優秀シリーズ作品賞と最優秀特殊効果賞を受賞している。
レイエス監督が9歳だった1978年、フィリピン・マニラでは月曜から金曜の夕方に日本のアニメが放送され、「ボルテスV」は金曜だった。「みんなが夢中になっていました。『マジンガーZ』や『闘将ダイモス』も放送していましたが、特別に惹かれたのは『ボルテスV』。金曜日の授業が終わると、僕らは脇目も振らず家に帰ったものです。金曜日の夕方から土日へ、週末の楽しみが『ボルテスV』から始まるんです」と振り返った。「“家族”の物語が、ダイモスの悲劇的なロマンチックさ、マジンガーZの時折見せるキュートなわざとらしさよりも、私の心に響きました。それからというもの、アニメの再放送や玩具やグッズを通して、生活の様々なところに再び現れました。まるでいつも一緒にいる旧友のようでした」と続けた。
アニメではボアザン星からの侵略を受け、3兄弟と仲間2人の5人がボルテスVに乗り込み、地球を守る戦いに臨む。今作では敵の攻撃で絶体絶命の危機に陥った5人が、命を投げ捨てた兄弟の母によって救われ、悲しみの中、次の戦いへ決意を新たにする場面までが描かれる。レイエス監督が手がけた90話のテレビシリーズでは、父がアニメ同様に敵星の皇位継承者から反体制側に身を転じており、遠く離れた星から家族を思う場面も描かれる。
レイエス監督は「このショッキングで感情を動かされる重いストーリーにより、『ボルテスV』は他の1970年代のロボット作品と一線を画しました。子供たち、ひいては地球を救うために自らを犠牲にする母親の無私無欲で英雄的な行為は、非常に家族的で母系社会であるフィリピンの観客に何十年にもわたって愛されるアニメとなった理由だと思います」と分析した。
そして、レイエス監督自身の家庭環境とも通じるものがあった。監督の父はエンジニアとして海外を飛び回る一方、母以外の女性との間にも子供がいたという。兄は1人いるものの「異母兄弟が何人いるのか…多すぎて分かりません。アニメでも兄弟の父は近くにいないので、とても共鳴したのです。アニメの出来事が、私の家族にも起こらないかを空想しました。後に両親は離婚したので、離散した家族が互いに思い合う物語は、一層のこと私に響きました」と語った。
同アニメのフィリピンでの放送を巡っては、最終盤に当時のマルコス大統領によって放送禁止措置が取られたことで知られている。レイエス監督は「なんで放送しないんだ、と僕たちは怒っていました。実際は戒厳令が敷かれていた訳で、親たちも説明できなかったですね」と振り返り、「実は『ボルテスV』だけでなく、他のロボットアニメの放送も打ち切られました。放送が続いたのは『キャンディ・キャンディ』だけ。ただ、そういうことがインパクトとして残り、僕たちの中で『ボルテスV』は不死身の存在になりました」と語った。現在ではプレミア価格で取引されるポピーの超合金玩具もコンプリートしていたという。
「ボルテスV」はフィリピンで再放送が繰り返され、その度に人気を博し、世代を超えて愛される作品に成長。「ボルテスV レガシー」ではフィリピンの俳優が起用され、「剛兄弟」が「アームストロング兄弟」となるなど、役名は当然のことながら変更されたが、「岡めぐみ」が「ジェイミー」となっても忍者のままであるなど、基本設定の変更はない。日本ならば、例えば忍者がハッカーに変更され、3兄弟の一人を女性にしてしまうなどオリジナル設定が施されることも考えられるだろう。
レイエス監督は「とにかく誠実に作らなければ、と気が張っていました。フィリピンの視聴者が誇りに思い、日本の皆さんにも受け入れられるものでなければならない」と信念を掲げた。「ジェイミーは忍者の設定が後々生きるので、変更しなくて良かった。他にも(敵国の皇族)ザルドスは角を生やした長髪ですが、カツラが大変だったので、短髪でも良かったかもしれない。でも、オリジナルを尊重したかった。衣装は全体的にコスプレにならないよう、マーベル作品レベルを目指しました」と語った。ボルトマシンの発車シーン、ボルトマシン5機の合体シーン、日本語で歌われる「ボルテスVの歌」の挿入、兄弟の母の殉職シーンには特に力を注いだ。
もちろん「70年代の作品ですから、現在で見劣りしないようにアップデートしていく作業が最も大変でした」と語る通り、オリジナル要素も多い。ただし、それはレイエス監督の〝ボルテス愛〟によるものだ。「ボアザン帝国の文化、身分制度、科学力に関心を持ち、とても考えました。アニメを見ている時から、スティーブ(原作では剛健一)とマーク(同、峰一平)とジェイミー(同、岡めぐみ)の三角関係が描かれたら面白いな、と考えていたことも、自分の考え通りに反映できました。超合金オリジナルでアニメにはなかったボルテスVの重戦車形態も登場させましたが、これはフィリピンですごく反響がありましたね」。アニメ全40話が、実写版で90話に膨らんだ理由となった。
18日に公開される映画のほか、TOKYO MXテレビで10月1日からテレビアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」のHDリマスター版セレクションが放送されており、11月12日からはテレビシリーズ版「ボルテスV レガシー」を再編集した“超電磁リスペクトTV版”放映が予定されている。レイエス監督は「僕たちの愛は日本の皆さんに引けを取るものではありません。好奇心を持ってくれた方を満足させたい。日本でも受け入れられて、『新しい企画』につながればいいなと思います」と呼びかけた。「新しい企画」とは何かを質問すると、監督は「ダイモス」とニッコリ。新たな夢として「闘将ダイモス」の実写リメイクを思い描いていた。