被災地への「迷惑な支援物資」〝善意〟で賞味期限切れ食品などを送る家族を説得する方法 識者が見解

石原 壮一郎 石原 壮一郎
画像はイメージです(IEPPEI/stock.adobe.com)
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  大きな災害を受けた被災地に民間レベルで送られる「支援物資」だが、中には賞味期限切れの食品などが避難所に届けられることもあり、〝迷惑物資〟として問題化している。そうした配慮を欠いたまま物資を送ろうとする人が家族などみじかにいた場合、その〝善意〟に対して、どのように説得して納得させることができるだろうか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が対策を提言した。

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 【今回のピンチ】

 実家に帰ったら、独り暮らしの母親が古着や賞味期限が切れた缶詰を段ボール箱に詰めている。「被災地に送るの」と言っているが、明らかに迷惑でしかない。どうしたものか……。

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 母親としては「もしかしたら役に立つかもしれない。少しでも助けになれば」と、純粋に善意で行動しているのでしょう。しかし、この善意というヤツはなかなかの曲者(くせもの)で、時に相手を傷つけてしまうこともありえます。

 被災地に古着や賞味期限が切れた缶詰がごっちゃ混ぜに入った段ボール箱を送っても、迷惑となるケースが多いです。忙しく救援活動に携わっている人たちに、何が入っているかわからない箱の中身を仕分ける作業をさせることを想像してみてください。

 しかも、古着が必要になる可能性はかなり低いです。まして賞味期限が切れた缶詰に至っては、食べてもお腹は壊すことはほぼないとは思いますが、体調が万全でない被災者に万一の事態が起こる可能性もあります。

 母親がやろうとしているのは、「捨てるのは気が引けるから、このチャンスに被災地に押し付けて『いいことをした気分』を味わおう」という“純粋すぎる”所業です。絶対に阻止したいピンチですが、さて、どう言えば目を覚ましてくれるのか。

 ストレートに「なに考えてんの!こんなの送ったら超迷惑だよ」と言っても、「いいことをしている自分」に酔っている母親は、ムキになって「まだ着られる(食べられる)んだから、もったいない。役に立つかもしれないじゃない」と言い張るでしょう。

 この「もったいない」も、極めて厄介。母親の中では、すべてに優先する絶対的な正義として君臨しています。現地では、何が入っているか分からない箱を仕分ける時間や手間の方が、はるかに切実に「もったいない」のに、そこには想像が及びません。

 こっちの話に耳を傾けてもらうために、まずは「母さん、やさしいねえ。少しでも助けになりたいなと、俺も思うよ」と、その動機の部分「のみ」をホメて、ちょっと得意気な気持ちになってもらいましょう。その上で、

 「このあいだテレビで言ってたんだけど、古着や食品は、送っても現地で手が回らなくて、ほとんどが倉庫に山積みになるらしいよ。それも悲しいよね」と、テレビという母親世代にとっての“虎の威”を借りつつ、説得を試みます。ここで「迷惑」という単語を出すと、せっかくの善行を否定されたことにカチンときて、態度を硬化させる恐れがあります。

 「今回は、できる範囲での義援金を寄付することにしたらどうかな。その方が、母さんの気持ちもしっかり届くと思うよ」と言えば、暴挙を思い留まってくれるでしょう。

 それでも「もう箱に詰めちゃったし……」とグズグズ言うようなら、「俺が持って帰るよ。食べられるものもありそうだしね」と言えば、ホッとして託してくれるはず。そもそも母親にとっての優先事項は、無自覚ではありますが、人助けよりも不用品の処分です。

 善意の危険性を常に意識しつつ、自分自身が母親と似たような行動をしでかさないように、くれぐれも気を付けましょう。

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