社員数は約280人。大阪の町工場から誕生した〝グラス〟が国内外から注目を集めている。八尾市に本社を構える「錦城護謨株式会社」が立ち上げたオリジナルブランド「KINJO JAPAN」が開発したグラスは、見た目は従来のガラス製とは変わらないが〝落としても割れない〟〝電子レンジで使える〟などの特色を持っている。
1936年に創業した同社は年間3000から5000アイテムに及ぶゴム製品の製造を中心に、土木事業や福祉関連事業などを展開。その技術力を生かして、素材に透明な「シリコーンゴム」を使用したグラスが作られた。見た目はガラス製とほぼ同じでも実際に手に持つと質感の違いが分かり、力を入れると「ぐにゃっ」と変形。耐冷や耐熱に優れ、使用可能温度帯が-30度から200度までと電子レンジでも使える。
開発のきっかけは八尾市が町工場などを活性化するために始めた行政プロジェクト「YAOYA PROJECT」に参画したことだ。広報担当者は「われわれとしてはチャレンジしたい。自社製品が作れたら、面白そうだなということで」と理由を明かす。ゴム部品は大手メーカーの電化製品などで使用されているが、どこの製品のどの部品かはほとんど知られていない。幅広い層に向けて同社の知名度を上げ、技術力の高さをアピールする意味もあった。
プロジェクトチームは当時のゴム事業副本部長、同技術課長、土木事業営業部係長、同管理部係長。30代後半から40代後半の4人で、2019年11月に正式スタートした。「製品開発で一番大切にしたのは社員が使える物、家庭で使える物。その軸の中で基本的に動いていました」と振り返る。
「YAOYA PROJECT」の公募で選ばれたデザイナーとユニットを組んで、高透明のシリコーンゴムでできたロックグラスを作ることに決定。「お互いにリスペクトして、思いを伝え合いました。こちらもデザイナーさんが言ってきてくれたことに対して、基本的にNOは言わずやりましょうという感じで。むしろ『めっちゃ、面白そうですね』みたいな流れでした。メンバー全員が楽しんでやっていました」。試行錯誤の末、第1作として「KINJO JAPAN E1」が誕生した。「すごくうれしかったですね。これまでこの種の喜びはなかったです」と体験したことのない感動があった。
2020年2月28日から45日間限定で「Makuake」を通じてクラウドファンディングを開始。税込み5900円と安価ではなかったが、数時間で目標額の30万円を達成すると、最終的には予想をはるかに上回る939%の達成率。「こんなに行くんや」と驚きと手応えをつかんだ。
それでも妥協することはなかった。クラウドファンディング期間中もデザイナーからの注文に応えて、金型を作り替えてデザインに変更を加えるなどブラッシュアップ。「予定していたお届け日より2週間ほど遅らせてしまい(応援者に)ご迷惑をおかけしましたけど、あそこで妥協をしていたら、今はなかったと思います」。半年をかけて納得のいく製品が出来上がった。
2023年2月にドイツ・フランクフルトで開催された世界最大規模を誇る国際消費財見本市Ambiente(アンビエンテ)に出展すると、見た目とのギャップで予想以上の反響があった。「いろいろな言葉をもらいましたね。〝アメージング!〟〝クレイジー!〟〝クール!〟…。イタリア人からは〝こんなのは考えつかない、日本人は賢いね〟と言われました」。海外からも高い評価を得た。「メイド・イン・ジャパンは終わったとか聞きますけど、そういう場所で〝日本から来ました〟と言うと〝やっぱりすごいね〟と」。日本製のブランド力は健在だと肌で感じた。
プロジェクトがスタートして5年。SNSなどで情報を発信している。現在は透明と青色のグラス、ワイングラスをモチーフにしたグラス、日本酒を楽しむことをイメージしたグラスと、3タイプ4種類を製造しており、「KINJO JAPAN」公式ホームページなどで販売。価格は税込み4950円から7700円と安くはないが、好評を得ている。インスタグラムを見たバイヤーから連絡を受け、フランスの有名セレクトショップで展示、販売も行っている。
さらなる目標もある。「僕たちはあくまでゴム屋さんでグラス屋さんではないので。グラスにとどまらず、自社の技術を使った製品を生み出して、これまでにないような価値を〝見える化〟していきたいです」。海外の展示会への出展も続けながら、自社だけではなく、日本の〝ものづくり〟を盛り上げていきたい。町工場の挑戦はまだまだ終わらない。