2022年放送のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公は小栗旬さん演じる北条義時(鎌倉幕府第2代執権)でしたが、その子孫に第14代執権・北条高時(1304〜1333)がいます。ちなみに高時の父は、北条貞時。モンゴル襲来(元寇)を退けた北条時宗の嫡男です。さて、鎌倉時代後期の執権・高時は暗愚な当主として、書物・ドラマなどで描かれてきました。軍記物語『太平記』がその代表例でしょう。
闘犬や田楽(曲芸的な要素がある歌舞)に現(うつつ)を抜かす高時。『太平記』によると、田楽が都で流行していると聞いた高時は、田楽の舞人を鎌倉に招き、日夜これを楽しんでいたと言います。毎夜、酒宴を催し、そこで田楽を舞わせたのです。
ある夜も舞人たちが、田楽を舞っていたのですが「天王寺の妖霊星を見ばや」との歌声(囃し声)が聞こえたそうです。その声を聞いた侍女が興味津々で障子の破れ目から舞いを見ようと覗いてみると、とんでもない光景が目に飛び込んできました。田楽の舞人の姿はそこにはなく、嘴(くちばし)が曲がり鳶のような者や、身体に翼があり頭は山伏のような者、いわば「異類異形の怪物」がそこにいたのです。
侍女は驚いて、安達時顕(高時の舅)のもとにその変事を告げます。時顕が荒々しく現場に駆けつけてみると、その「怪物」共はふっと姿を消したとのこと。宴席では、高時が酔い潰れて寝ていましたが、その畳上には鳥獣の足跡が多く付いていたそうです。高時は暫くして、酔いから醒めますが、何が起きていたか、全く知らなかったのでした。
この逸話を後に伝え聞いた儒学者・藤原仲範は「天下がまさに乱れようとする時、妖霊星という悪星が下り、災いをなすという。怪物共が天王寺の妖霊星と歌ったのは、必ずや天王寺の辺りより天下の動乱が出来し、国家が敗亡するという意味であろう。国王は徳を治められ、武家は仁を施してこの受難を消してほしいものだ」と語ったそうです。『太平記』のこの逸話は後付け、創作でしょうが、後に幕府に対して挙兵した楠木正成は天王寺の戦いで幕軍を破ることになります。