韓国の注目絵本作家、キム・サングン「星をつるよる」日本語訳出版を記念して来日!絵本に込めた思いとは

椎 美雪 椎 美雪
絵本作家のキム・サングンさん(左)と「星をつるよる」の日本語訳を担当したすんみさん
絵本作家のキム・サングンさん(左)と「星をつるよる」の日本語訳を担当したすんみさん

 近年韓国では、“絵本”に対する認識に変化が生じている。絵本と言えば、子どもの読みものとしてその存在感が大きいが、最近は大人が読むものとしても広まっているようだ。もちろんこれまでの絵本はそのままに、読者の対象年齢が広まったといったところだろうか。それに伴ってか、韓国では新進気鋭の若手絵本作家が多くデビューしている。

 5月初旬、そんな作家の一人であるキム・サングンさんが来日。彼の絵本「별 낚시(ビョル ナクシ)」が邦題を「星をつるよる」(パイ インターナショナル)として、日本で出版されたためだ。日本に来るまで「現地には、本当に僕の読者がいるのか不安だった」というキムさん。この日は韓国絵本を楽しむサークルの面々と対面し、喜ぶ姿を見せた。

 キムさん家は、幼少のころからアニメを観るのが大好きで、母親に怒られるまでテレビの前から離れなかったという。その作品の中にはジブリ作品もあると言い「日本に来たら、絶対に“三鷹の森ジブリ美術館”へ行こうと思っていたのですが、予定と合わず断念しました」と残念そうに明かした。こうして、アニメに関する職業に就きたいと美術を学んだ後、モバイルゲームなどのキャラクターデザインを手がけていたそうだ。

 本業を続けながらも、絵本の構想を描きとめていたキムさんは、今回日本語訳が出版された「星をつるよる」を2014年から作りはじめ、翌年2015年に初稿をボローニャ国際絵本原画コンクール(イタリア北部のボローニャで毎年開催されている絵本の原画コンクール)へ出展、関心を引いた(当時の原題は「Star Fishing」)。この当時にも、韓国をはじめとする海外出版社から同作出版のオファーを受けたのだが、自身に心残りがあったため、出版を保留に。今振り返っても「あの時に出版していたら、後悔があったと思う」というほど、思い入れは強い。

 こうして「星をつるよる」はひとまず“横に置いて”先に「もぐらくんのなやみ」(未邦訳)を出版。続けて「もぐらくんのねがいごと」を発表し“もぐらくんシリーズ”で話題を集めることに。絵本作家として歩みを進める中、キムさんは2018年にアフリカ南西部に位置するナミビアへと旅に出る。「満天の星に埋まるような、銀河の一部になってみたかった」と言い、夜には明かり一つない場所でテントから上半身を出して寝転んでみたという。すると、本当に落ちてくるのではないかと思うほどの星空や流れ星に魅了され、胸がいっぱいで眠れなくなったそうだ。これをきっかけに「星をつるよる」にどんな思いを込めたかったかも明確になり、帰国後に本腰を入れて創作。出版される運びとなった。

 この日は、日本語訳を担当したすんみ氏も同席。他言語を翻訳するにあたり気を付けたことを尋ねると「子どもたちが自分の物語として読めるように、細心の注意を払いました」と言い「どうすれば原書と差異のない表現になるか、韓国語のイメージに寄せられるか、キムさんともたくさん相談しました」と明かす。

 キムさんは「大人も子どもも、さまざまな理由で眠れない夜があります。そんな時、作品に登場する“うさぎ”のような存在がいてほしい、この絵本が読者に寄り添い、心のよりどころの一つになってくれたらうれしいです」と伝えた。

 当日は、キムさん自身が制作したというブックトレーラーを用いて「星をつるよる」を読み聞かせてくれるという、最たるぜいたくを味わわせてくれた。また、絵本に登場するキャラクターを見ると、みんなとても優しく柔らかい表情をしている。そしてその表情は、キムさんにどことなく似ているから不思議だ。

 余談だが、キムさんは彼女にこの絵本を読み聞かせ、プロポーズ。見事成功し、幸せな結婚をしている。

 巻末にあるキムさんのプロフィール欄には、彼からのメッセージがつづられているので、そちらもぜひお見逃しなく。

「星をつるよる」

発売中・好評により重版決定!

絵・文:キム・サングン 翻訳:すんみ/出版:パイ インターナショナル/価格:1500円+税

◆キム・サングン(きむ・さんぐん):韓国・ソウル在住。デビュー作「もぐらくんのなやみ」(未邦訳)が2014年ボローニャ国際児童図書展で紹介され注目を集め、台湾のベストブック賞を受賞。また「もぐらくんのねがいごと」(岩崎書店)が、アメリカの独立系書店が選ぶTOP10絵本に選ばれるなど、国内外で高く評価されている。 

◆すんみ:1986年、韓国・釜山生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。訳書に「5番レーン」(鈴木出版)、「あまりにも真昼の恋愛」(晶文社)、「屋上で会いましょう」(亜紀書房)、「女の子だから、男の子だからをなくす本」(エトセトラブックス)などがある。

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