あらゆる分野で数多くの老舗が存在する京都。その中でも京都仏具・密教仏具専門「田中伊雅佛具店」は、仁和年間(885年頃)創業と1100年以上の歴史を誇る。70代目の田中雅一社長(70)は「もともとは仁和寺の門前にあって、密教の鋳物を作っていました」と語る。
過去に火災もあって、創業当時の資料などは残っていないが、名前が記録されている書物はいくつかある。同店が所有する慶応4年2月(1868年)に書かれた「仁和寺塔頭寺院心蓮院に伝わる弘法大師像の由来書」には、仁和寺の開祖から当時の門跡までの系譜が示されており、田中伊賀として名前が記されている。明治の廃藩置県で政府から「伊賀は良くない」ということで、現在の「伊雅」に改名した。
寺の仏具が中心だが、一般の仏壇も取り扱う。ただ、現状は厳しい。寺の住職不足、一般家屋での和室の減少。「苦労はありますよ。今、和室がないでしょう。仏壇を置くところはないし、表具も掛けるところがない」と苦悩ぶりを明かす。
海外にも目を向けた。かつては中東の富裕層から「大きな仏壇にワインを置きたい」という依頼もあったが、うまくいかなかった。「こっちの意匠では、向こうには合わなかったみたいで。向こうのデザインに合わさないと…。デザイナーを探して、向こうの需要を見つけてからになると、かなりハードルは高いですね」と理由を語った。
京都府仏具協同組合理事長の肩書も持つ田中社長は「これから先もっと厳しくなるでしょう。宗教離れというか。後継者が減っているんですよ。廃業する方も多いですね。だから困ってます」と業界の将来も危惧する。「組合加入者で物を作る方が90社で、売る方が50社くらい。ここ10年で20、30社くらい減っていますね」と歯止めの利かない状況にもどかしい様子だった。
ただ、手をこまねいているわけではない。京都の大学生とコラボした斬新なデザインの仏壇も発売。同組合ではコロナ禍の影響もあって、3年前からWEB展示会も実施するなど、幅広く発信している。「WEBにすると見ている人が多いです。それを見て買いに来てくれる人がいるといいですね。京都の品物の良さを分かってもらえますし、組合がやってますから、商品が間違いないのも分かってもらえます。だんだん商品も増やして、新しい商品も出しています」。明るい兆しも少しずつ見えている。
「伝統工芸品というものは、日本の文化。残そうと思ったら守っていかないと」。一度失うと復活させるのは至難の業。後世に残すためにも、行政にも働きかけながら、しっかりと前に進んでいく。