話題の"武器メーカー"社長が壮絶な前半生と成功への転機を告白「ワクワクし続けて死にたい」

ぽすわんのカノー ぽすわんのカノー

現代の日本に"武器屋"が存在していることをご存じだろうか?

それは兵庫県高砂市に工房を構える匠工芸。匠工芸の手がけるのは、武器と言っても人を傷付けるものではなく、RPGの世界さながらのインパクトあるデザインで、鑑賞用だったりコスプレ用に装備して楽しむことを目的にしたもの。

2008年に創業した比較的新しい会社だが、SNSやイベント出展を通して認知を広げ、今や世界的な注目を集めているのだ。

しかし匠工芸が創業されるまで、そして現在の地位を確立するまでには相当な紆余曲折があったようだ。創業者で代表取締役の折井さんに話を聞いた。

「21歳の時に、悪性リンパ腫ガンを患ったんです。プラスチック会社で働き出して2年目のことでした。何度も生死の境をさまよいました」

闘病生活は壮絶を極め、当時、同級生の間で折井さんが亡くなったという噂が流れていたそうだ。数年の闘病生活の後、どうにか職場復帰し、技術を身に付けながら転機が訪れたのは30歳の時。コンピューター制御で図面通りにプラスチックを切断できるマシーン「NCルーター」と出会った。

「これさえあれば子供の頃、思い描いたワクワクするものづくりができる!」

欲しいと思ったNCルーターは約1000万円だったが、もちろんそんな貯金はなかった。

「起業しようと安直に思いました(笑)。ただ、僕の体調や高額な借り入れを心配され、周りは全員もれなく反対でしたね。不安はもちろんありましたが、何も成さずに一生を終えたくないと思いました」

しかし起業後、仕事は思うようには入らなかった。借り入れの支払いは待ってくれない。営業に駆けずりまわり、寝る間も惜しんで借金のためだけに働く日々。精神的に追い詰められ、自分の生きている意味が分からなくなってしまっていたという折井さん。

そんな時、ふと頭に思い浮かんだのが、子どもの頃から大好きな「ガンダム」や「ファイナルファンタジー」などの作品だった。

「自分のルーツを振り返って、アニメやゲームに出てくる架空の剣を作ってみることにしました。自分がワクワクする為だけに、です」

請求書も領収書も発生させないまま、自分の心を満たすために夜な夜な剣を作り続ける折井さんを見て、従業員は不審感を感じていたという。「お金にならないことは辞めてください!」と言われ、実際、展示会に出品しても剣はほとんど売れない。いよいよ工場長を含めた数人の社員が退職してしまったが、それでも剣づくりは止められなかった。

状況が変わったのは2017年のことだ。「販売価格を抑えれば剣は売れるのだろうか…?」とふいに思い立ち調べると、パーツ数をおさえ製作工程をシンプルにした50cmの小型の剣なら約10000円程度で作れることがわかった。そして、これが当たって飛ぶように売れた。現在の主力商品の1つ「ロミニングカトラス」である。

「まさか、自分の精神安定のための剣作りのノウハウが、会社を救うとは思っていませんでした。プラスチックの剣は何も斬れないかもしれませんが、心がワクワクするという特殊効果は最強です(笑)」

その後、コスプレなどの需要をつかみ、今では日本を代表する"武器メーカー"となった匠工芸。2021年にはあの手塚プロダクションとのコラボで「リボンの騎士」の剣(販売は既に終了)を手がけ、現在は新たな挑戦として、剣を実際に振るいながらモンスターと戦えるゲーム「テイル・フロム・エファンゲーリウム」を開発中だそうだ。

「コロナ禍にたまたま展示会で知り合った会社と、つい意気投合してしまいゲーム制作しようという話になりました」

予算は1800万円と高額だが、もう折井さんを止める人はいないという。

「みんないい意味で諦めてます(笑)。ちなみに完成度は現在80%程度。工房内のみで体験できますが、システムとしては持ち運べますので、全国で体験をしてほしいと思っています」

今も悪性リンパ腫ガンは完治しておらず、ステージ3の状態。それでも自分のやりたいことを追求し続ける折井さんに今後、どのような人生を歩んでいきたいか聞いた。

「命をまだ戴けるのであれば、引き続き自由な発想で全力で邁進できる会社にしていきたいです。お金はたまらないかもですが、ワクワクし続けて死にたいです」

匠工房HP:https://takumikohgei.com/
テイル・フロム・エファンゲーリウム特設サイト:https://talefromevangelium.com/

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