絵が描けない原作者 漫画ネームをモーションキャプチャーで作画 異色の試み 

山本 鋼平 山本 鋼平
「魔法史に載らない偉人 ~無益な研究だと魔法省を解雇されたため、新魔法の権利は独占だった~」単行本2巻の書影
「魔法史に載らない偉人 ~無益な研究だと魔法省を解雇されたため、新魔法の権利は独占だった~」単行本2巻の書影

 講談社のマンガアプリ「マガポケ」で今年4月から連載中の「魔法史に載らない偉人 ~無益な研究だと魔法省を解雇されたため、新魔法の権利は独占だった~」の原作者・秋さんは、吹き出しやコマ割りが描かれた〝漫画の設計図〟ネームを作成するため、モーションキャプチャーを取り入れている。異色の試みに至った経緯、その成果を聞いた。

 秋さんはアニメ化された「魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~」で知られるライトノベル作家。「魔法史に載らない偉人―」のコミカライズに際しては、自らが漫画原作者も担った。

 絵心に乏しく、ネーム作成に、モーションキャプチャーを採用。VTuberシステムで実績があるスパイス社が協力した。秋さんのために操作、機能が簡略さされた仕様で、6平方メートル程の仕事場のスペースを用いて、撮影は一人で行う。被写体である自身の動きを、3Dキャラクター(男性・女性・子ども・モブキャラの計4種)に反映させ、服装、表情、髪の色、メガネなどを装飾する。アングルの調整、キャラクターの拡大縮小、複数のキャラクターの組み合わせを駆使。データをCLIP STUDIO PAINTに移し「コマ割りをして、文章でセリフ、キャラクター位置、簡単なト書きを入れた、モーションキャプチャーでの撮影用のネームがあります」と、絵を加え仕上げていく。

 秋さんは「3Dモデルを普通に動かすと時間がかかりすぎたり、習熟するのに時間がかかったりすると思うのですが、このシステムであれば簡単で直観的な操作ができます」と成果を口にした。当初の撮影時間は3~4時間だったが、現在は2時間程度に短縮。「モーションキャプチャーというのは、自転車みたいなものだと思うのですよね。なくても移動はできますが、あると早い。その代わり、階段は進めないみたいな」と語った。

 一方で、機材トラブルが生じ「2台のPCを同期させて、モーションキャプチャーの情報を別のソフトに流して3Dモデルを動かしているのですが、どう設定を見直しても同期しなくて直すのに一日ぐらいかかりました」という苦労もあったという。

 漫画原作といえば、古くは原稿用紙に万年筆でシナリオ、セリフを書き込むイメージが強い。名作「あしたのジョー」では、高森朝雄(のちの梶原一騎)の原作をちばてつやが作画した際、矢吹ジョーのライバル力石徹を大きく描きすぎたため、後の過酷な減量エピソードにつながった逸話がよく知られている。

 絵心に乏しいライトノベル作家の秋さんは、テキストで漫画原作を作成する考えがなかったのか。

 秋さんは「コミカライズやアニメ化を経て分かったのですが、文章というのは思った以上に伝わらないのですよね。元々、文字媒体の作品というのは読み手によって解釈の幅が広いというのもありますし、なにより読む側のクリエイターが文字に慣れている必要があります。どのメディアでも読み手側のスキルというのは必要になってくると思いますが、小説というのは他よりも少しハードルが高い印象です」と率直な思いを吐露。「例えば、漫画家や漫画編集者は漫画には慣れ親しんでいると思いますが、文字媒体の作品にはついてはさほどではない人もいらっしゃるかと思います。業務自体に必要がないことも多いでしょうし、普段小説は読まないという方もいるでしょう。そうしたときに、テキストのみの漫画原作で十分な伝達をするには時間がかかってしまいます」と続けた。

 これらは漫画原作者の現状に照らした考えでもある。「テキストのみの原作は、恐らく漫画を作る上でも望ましいやり方ではないのだと思っています。たとえばテキスト形式でOKの漫画原作賞というのはそんなに多くはありませんし、プロットや小説の持ち込みを受け付けている出版社というのもさほど数はないように思います」と説明。確かに近年の原作者は、漫画家志望者からの、さらにはプロの漫画家が転身するケースも多い。「やはり漫画原作の仕事をしたいと思ったら、なにはともあれネームが作れなければどうしても門戸が狭くなってしまいます。それをどうにか解決できないかといったところから出発しました」と、経緯を説明した。

 モーションキャプチャーを利用する原作者が続くかは未知数だが、絵心の乏しさをカバーする事例が誕生したことは間違いない。原作を魅力的な漫画にする、作画担当・外ノさんとのタッグ。単行本第2巻は7日に発売された。秋さんは「孤児の娘シャノンと彼女を引き取った学位を持たない天才魔導師アイン。不器用な父と脳天気な娘が織りなす家族模様をお楽しみいただけましたらとても嬉しいです」と呼び掛けた。

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