『ドクター・ストレンジ』続編で際立つ映像美と“至高”の遊び心 幽霊より恐ろしい人間の闇が生み出す代償

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」のワンシーン=(C)Marvel Studios 2022
「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」のワンシーン=(C)Marvel Studios 2022

 『アベンジャーズ』を筆頭とするマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU=マーベル・コミックのスーパー・ヒーロー映画やドラマが共有する世界)の中でも圧倒的な映像美を誇る『ドクター・ストレンジ』の続編『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が遂に登場。

 しかも自社配信にも力を入れるディズニーが映画館でしか味わえない極上のエンターテインメントを生み出しました。今回の主人公であるマーベル・ヒーロー「ドクター・ストレンジ」には、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で本年度アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされたベネディクト・カンバーバッチが続投し、彼なしでは成し得ない難解なキャラクターを見事なまでに体現しています。

 というのもドクター・ストレンジことスティーヴン・ストレンジは、事故により両手を負傷したことからカマー・タージで神秘の力の修行をし、空間移動をすることが出来るようになった元外科医の魔術師ですが、本作ではマルチバース(多宇宙:パラレルワールド)を移動しながら、それぞれの世界で様々な性質のストレンジと遭遇。その全ての人物をカンバーバッチが演じ切っているのです。ちなみに今年の米アカデミー賞のパーティでカンバーバッチとツーショット写真を撮った西島秀俊さん曰く、「一緒に写真を撮ろう」と向こうから言ってきたほど、気さくな人物だったとのこと。

 さて、気になる新作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で描かれる時代は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でマルチバースの扉が開かれた後であり、新キャラクター、アメリカ・チャベス(ソーチー・ゴメス)が物語の鍵を握ります。彼女は追われる身であり、複数のユニバース(世界)を移動出来る特殊能力により、ある日、ストレンジの前に現れます。

 更に『アベンジャーズ』シリーズでも人気を誇るテレキネシス(念力)と心理操作の能力を持つワンダことスカーレット・ウィッチ(エリザベス・オルセン)が登場し、観客は人間の心の闇という迷宮に迷い込んだ映画体験を味わうのです。一つ付け加えるならば、エミー賞3部門、MTVムービー&TVアワードで4部門受賞他、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞にエリザベス・オルセンがノミネートされたディズニープラスで配信中のTVシリーズ「ワンダヴィジョン」を見ているとより映画のテーマを理解出来ることでしょう。

 しかも監督を務めるのはトビー・マグワイアがピーター・パーカーを演じた『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ。もともと『死霊のはらわた』や『ギフト』などホラーやスリラーといったジャンルが得意な監督なので、本作ではよりダークな色合いで多くの犠牲者が出る驚きの展開を遊び心満載で見せてくれます。

 とはいえ根底に描かれているのは、幽霊よりも恐ろしいのは生ける人間ということ。物語の登場人物はスーパー・ヒーローですが、現実に置き換えるならば、どんな誠実な人物でも判断を誤ることもあれば、一度、欲望に囚われてしまうと非情な人間となり、代償を支払う結果を生むと映画は伝えているのです。

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