今、“エモい”(感情が揺さぶられる)日本映画がブームになりつつあります。
そのきっかけを作ったのは菅田将暉と有村架純が共演し、坂元裕二がオリジナル脚本を書き、土井裕泰が監督を務めた『花束みたいな恋をした』(2021年1月29日公開)で、コロナ禍でありながら興行収入38億円を突破。映画は元恋人同士の出会いから別れまでを回想するかのような映像で見せていき、結果的に老若男女が共感する恋愛映画として話題になりました。
その後、森山未來と伊藤沙莉が共演、燃え殻の原作を森義仁監督で映画化した『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021年、11月5日公開)や、北村匠海と黒島結菜が共演、WEBライター・カツセマサヒコの小説デビュー作を松本花奈監督により映画化した『明け方の若者たち』(2021年12月31日公開)と、恋人たちの出会いと別れを綴る映画が立て続けに作られたのです。そして2022年、更に“エモい”恋愛映画、『ちょっと思い出しただけ』がバレンタインデーの前となる2月11日に公開されます。
本作は、以前から親交のあった松居大悟監督と池松壮亮、クリープハイプの尾崎世界観がタッグを組んだもので、あるカップルの6年間の関係を出会いから別れまで綴った松居監督による完全オリジナル脚本。そもそもジム・ジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』へのオマージュでクリープハイプが主題歌を作り上げたことから、松居監督が物語を思い付いたので、伊藤沙莉演じる主人公が『ナイト・オン・ザ・プラネット』のウィノナ・ライダーさながらタクシー運転手という設定なのもニクイのです。しかもジャームッシュ映画に『ミステリー・トレイン』『パターソン』と出演している永瀬正敏が愛する妻を公園で待ち続ける男を演じているのも映画ファンにはたまらない仕掛けになっています。
そして、もう一人の主演である池松壮亮は、元ダンサーという設定からコンテンポラリーダンスにまで挑戦。更に主題歌だけでなく、ミュージシャン役として映画初出演を果たした尾崎世界観の存在感が光る本作は、昨年行われた第34回東京国際映画祭観客賞、スペシャル・メンションのW受賞に輝きました。きっと映画ファンの心を撃ち抜いた理由には、青春恋愛映画によくある壁ドンのような大袈裟な仕草も無ければ、余計な説明セリフも無く、何気なくロマンチックな言葉をボソリと呟いたり、夜の水族館に潜入してデートを楽しむ姿が引きのカメラで絵画のように映し出されるように、いたって映画的な演出にあるのかもしれません。
まさにあの時、愛し合っていた二人の思い出ひとコマひとコマを振り返り、余韻に浸る映画『ちょっと思い出しただけ』。これこそ、大人になった私たちには無邪気だった恋の甘酸っぱさを呼び起こされるエモーショナルな作品なのではないでしょうか。