話題の「まぼろし博覧会」名物館長を直撃!巨大像から秘宝館、おばあちゃん遺品、阪神グッズも

北村 泰介 北村 泰介
「まぼろし博覧会」の入口で来館者を迎える館長のセーラちゃん(ツイッター「セーラちゃん まぼろし博覧会@maboroshimusume」より)
「まぼろし博覧会」の入口で来館者を迎える館長のセーラちゃん(ツイッター「セーラちゃん まぼろし博覧会@maboroshimusume」より)

 NHK総合の看板番組「ドキュメント72時間」で静岡県伊東市の珍スポット「まぼろし博覧会」が取り上げられた。くしくも初放送日、記者は都内から在来線とバスを乗り継ぎ、片道約4時間をかけて現地に到着。コスプレ名物館長の通称「セーラちゃん」は雪かきに追われていたが、しばし手を止め、よろず~ニューズの取材に応じた。膨大な展示物にかけた思いを聞いた。

 まぼろし博覧会は2011年、伊東市内の熱帯植物園跡地にオープン。海抜約300メートルの山中にある。同館長は「水滸伝の梁山泊をイメージしています。広さは約1万3千平方メートルで、東京ドームのグラウンドと同じくらいです」と説明した。

 かつての温室内には全長約12メートルの聖徳太子像が鎮座。「昭和の町を通り抜け」コーナーには戦前から戦後の貴重な広告やレコード、雑誌、書籍、玩具などが展示され、屋外には閉館した「元祖国際秘宝館」や「鎌倉シネマワールド」などから購入した展示物も並ぶ。

 来館者は年間3万人ほどだったが、コロナ禍で2~3割減ったという。記者は18年までに3度訪れていたが、さらなる展示物と施設の増加に驚いた。「元気になるものがないと人は寄ってこない。コロナ後を見据えて」。20年に89歳で亡くなった女性の遺品が家族から寄贈された「昭和メルヘン おばあちゃんの部屋」には、一庶民が生涯をかけて集めた人形やぬいぐるみが並ぶ。建設中の「ストリップ館」前には、昨年閉館した「広島第一劇場」の看板が置かれていた。消えゆく大衆文化の再生工場だ。

 セーラちゃんの「中の人」は出版社の社長。創業した1980年代に有名俳優によるベストセラーや、90年代サブカルの悪趣味ブームを象徴するムック本などを世に送り出した人物だが、本人は「過去に興味はない。今やっていることしか興味がない。基本、平日は東京で仕事をして、週末は伊東に滞在。夜明け前には現場に行きます」と話す。

 来館者を全身全霊でもてなす。帰路につく人を見かけると、駐車場まで猛ダッシュし、旗を振ってお見送り。記念撮影も忘れない。「身長174センチ、体重58キロ、体脂肪は5~6%」。アスリートのような体で走り回る。コスプレは6年ほど前に来館した「セーラー服おじさん」(※都内の大企業に勤務する傍ら、私生活でセーラー服を着ている男性)がヒントになった。「衣装は200着以上。メークは目の下にシャドーを塗って、まつげを付けるだけ。5分でできる」。ついには「セーラちゃんPremium写真集」を昨秋発売した。

 「サブカルの聖地」とも称され、ツイッターで「入館して5分で精神崩壊する」という投稿が反響を呼んだが、そうした外野の声には距離を置く。

 「ここはサブカルじゃないと思っています。人類の大半を占める庶民が生きる世界にあるモノはメインカルチャーであり、その社会にあるモノを展示しているという考えです。ただ、法的に問題があるモノ、危険なモノ、弱者に対する差別的なモノは展示しない。『5分で精神が崩壊する』も宣伝としてはいいですが、僕は全くそう思ってない。その人が『5分で崩壊する』と思ったに過ぎないだけで、それをうのみにすることはない。それぞれが驚いたり笑ったり、明日が楽しみになる気分になって帰っていただけたらうれしい」

 展示数は2万点以上。「実数は分かりません。知りたい方は数えてください」。東京芸大生が製作した「牛頭馬頭(ごずめず)」という巨大な御輿が壮観である一方、一般的には「ゴミ」扱いされるモノも作品として雑然と置かれている。

 その「何でもあり」な世界の一例として、新設の「大英智博物館」には阪神の03年リーグ優勝記念ウイスキーや甲子園球場で拾った使用済みジエット風船が展示されていた。実は関西出身のセーラちゃん。「阪神ファンですか?」と問うと、明言を避けた上で、「野球のいいドラマは阪神が勝つかどうか(笑)」。○○ファンといった「属性」に絡め取られるのは避けたいのだろう。ただ、阪神が気になる存在であることは確かなようだ。

 そんなカオスな世界に全国から同志が集まる。取材当日、積雪のためバスが運行を中止した途中の停留所から、凍結した道路を歩いて到着した男性は「神戸から来ました」。埼玉から来館していた女性は「神戸ですか!私は摩耶観光ホテル(※有形文化財の廃墟、通称マヤ遺跡)のツアーに参加しましたよ」と盛り上がった。

 まぼろし博覧会は、セーラちゃんという「編集者」がコラージュした約4000坪の作品なのだ。「お金儲けには興味がない。面白いことをやりたいだけ。展示物の99・5%くらいは買ってます。高いモノは1千万円近い。(総費用は億単位?)そうですね。でも、モノを『残したい』という感覚はない。形ある物はいずれなくなるわけで」。まさに「まぼろし」のごとく、いつ消えても不思議ではない、虚実皮膜の泥臭いユートピアがそこにあった。

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