2022年1月、ついに「大友克洋全集」が刊行される。大友克洋のほぼ全作品を網羅するとのことで、喜んでいたのだが、年内に発売される第1期ラインナップを見て驚いた。漫画や絵コンテ、シナリオ集に混ざって、「Animation AKIRA」(ブルーレイつき書籍、7月20日発売予定)とあるのだ。漫画や絵コンテ等の紙ベースだけではなく、映像作品も含まれているのである。
考えてみれば、「全集」とうたっている以上、映像作品がラインナップされるのは当然のことと言えよう。大友克洋はアニメーションにおいても多大な功績を残しており、ジャパニメーションという言葉を生み出した「AKIRA」の影響力からすれば外すことはできない。大友克洋は漫画家である一方で映画監督でもあるのだ。
ここではそんな大友克洋のアニメーション作家としての足跡を振り返ってみる。
アニメとの最初の関わりはキャラクターデザインを担当した「幻魔大戦」(1983年/監督:りんたろう)である。ムック本「別冊アニメディア 幻魔大戦」(1983年/学習研究社)によれば「今回のアニメの仕事をしてみて、フィルムの絵というか、印刷物との違いというものには、あらためて考えさせられましたよ。今度は演出とか絵コンテで参加してみたいな」と述べている。漫画とアニメとの違いを肌で感じ、この経験をきっかけにアニメ制作への意欲が生まれたのは間違いない。
その機会はすぐに訪れ、オムニバスアニメ「迷宮物語」(1987年)の「工事中止命令」で初監督を務める。ロボットが自動で進める工事現場へ主人公が乗り込んで中止を言い渡すという内容で、退廃的で薄汚れた工事現場はすでに「AKIRA」同様の世界観を感じさせる。描き込まれた機械類やロボットたちの不気味な動きはほかのアニメにはない雰囲気を持っており、すでに大友克洋のアニメ監督としての鋭い感覚が冴えわたっている。
そして初長編となる「AKIRA」(1988年)を制作する。作品としての面白さは言うまでもないが、驚かされたのは「動き」へのこだわりである。まず「口の動き」。通常のアニメであれば「開く」「閉じる」「中間」の3種で作画されるところ、母音と同じ5種で描き分けて、リアルな口の動きを再現した。また、メインのキャラクターが動いている時、それ以外はだいたい止まっているものだが、画面上すべてのキャラが動いており、さらにバイクのライトに残像を加え、複雑な形状の脳波の描写に3DCGを合成するなど、細部にわたるこだわりを見せている。
続いてオムニバス「MEMORIES」(1995年)の「大砲の街」を担当。この作品は全編1カットで構成されている。かといって、固定された画面ではなく、カメラが縦横無尽に動き回るような映像が続くのである。実写映画ならまだしもそれをアニメで描くというのは前代未聞といえよう。
長編2作目となる「スチームボーイ」(2004年)。「大砲の街」でも見られた蒸気や機械類の表現が、デジタルと組み合わせることで格段に向上している。細部まで描き込まれた複雑なメカの動きが見ていて気持ちがいい。
「SHORT PEACE」(2013年)は4本からなるオムニバスで、大友は「火要鎮」を手掛けた。絵巻物や浮世絵に見られる斜め上視点による平行パースや吹抜屋台を用いており、動く絵巻物といった純日本的アニメを見せてくれた。
駆け足ではあったが、大友克洋のアニメ作品を振り返ってみた。いずれも一筋縄ではいかない仕掛けがあり、まだ誰も見たことのない映像がサラリと含まれていた。「新しいアニメ映像を作りたい」というのが動機にあるのだろう。次回作があるとすれば、また新たな仕掛けがあるに違いない。大友克洋全集を堪能しながらのんびりと新作を待つことにしよう。